つなぎ予算と債務上限で議会がドタバタ〜早くもトランプの求心力にほころび?〜

つなぎ予算と債務上限で議会がドタバタ〜早くもトランプの求心力にほころび?〜

先週、アメリカ政府のつなぎ予算の成立が急に危うくなり、大統領選で完勝したドナルド・トランプの求心力に早くもほころびが見られた。つなぎ予算のドタバタがこの先のトランプの政権運営や下院議長の選任において一悶着ありそうな兆候であることを解説していく。

背景としては何があったの?

アメリカ政府の会計年度は10月に始まるが、立法プロセスが煩雑なアメリカでは、予算が会計年度前に成立しないことはざらにある。2025年度予算も例外ではなく、今年の9月25日、アメリカ政府は予算を12月20日(金)まで継続させるContinuing Resolution、いわゆるつなぎ予算を成立させた。

このまま何もしないと12月21日(土)の0:01からアメリカ政府は予算がなくなり閉鎖されるため、予算の先議権を有する連邦下院の議長であるマイク・ジョンソン(Mike Johnson)は、予算を3月14日まで継続させる新たなつなぎ予算を12月17日(火)に公表した。

下院では共和党がギリギリで過半数の議席を保有しているが、党内が深く分断していることから、与党の共和党は何ヶ月間も野党の民主党の協力がないと法案を可決させることができない状態に陥っている。したがって、公表されたつなぎ予算はジョンソンが民主党執行部と交渉した産物だった。

この経緯から民主党がつなぎ予算に賛成することは確実だったため、政府閉鎖は回避されると思われていた。

ところが、17日の深夜、トランプに「政府効率化省(DOGE:Department of Government Efficiency)」の共同長官に指名されたイーロン・マスク(Elon Musk)がX(旧Twitter)でつなぎ予算を批判する投稿を100回以上連投し、18日にはまだ大統領になっていないトランプも反対を表明した。(トランプが正式に大統領に就任するのは来年の1月20日)

トランプが反対姿勢を明確にしたことで下院の共和党議員の多くもトランプに同調し、何週間もかけて交渉されたつなぎ予算が政府閉鎖の間際にあっけなく決裂した。

トランプはなぜ自党のジョンソン議長が交渉したつなぎ予算に反対したの?

債務上限を撤廃する条項をつなぎ予算に盛り込むべきだと主張したからだ。

こちらで解説している通り、アメリカ政府の支出には、予算だけでなく、国債発行枠である債務上限が定期的に上げられる必要がある。

債務上限は2023年6月に一時的に撤廃されたが、2025年1月1日に復活する。財務長官が非常手段(extraordinary measures)を導入しても夏には手元資金が底をつきアメリカ政府は債務不履行状態になることが想定されているため、近いうちに債務上限を上げるのは必須事項となっている。

債務上限を上げる議論は毎回もめるので、トランプとしては、債務上限の問題をバイデン政権中に解決してもらいたかったのだ。

トランプが求めた債務上限の撤廃はなぜ実現しなかったの?

マスクとトランプの介入後、ジョンソン議長はトランプが要求した通り債務上限の撤廃を盛り込んだつなぎ予算を12月19日(木)に提案した。

だが、民主党からすると、何週間もかけて交渉してきた予算が土壇場になってちゃぶ台返しされたので、共和党の茶番に付き合う気はさらさらなく、同党の議員は全員修正案に反対した。

また共和党側でも、30人を超える議員が、債務上限を上げるのであれば予算を削減すべきという従来の党の主張を展開して造反したため、修正案は大差で否決された。

上院では民主党が過半数の議席を有しているため、この修正案はたとえ下院を通過しても上院で否決される運命だったので、そもそも現実的な解決策ではなかった。

で、政府閉鎖はどのように回避されたの?

結局、当初のつなぎ予算から一部を削った修正案が12月20日(金)に下院と上院で可決された。つなぎ予算が上院で可決されたのは12月21日(土)の0:38で、厳密に言うと政府は既に閉鎖状態になっていた。

下院での表決では、民主党所属の議員が全員一致で賛成したものの、共和党所属議員の34人が造反した。

重要なことに、最終的に成立したつなぎ予算にはトランプが求めていた債務上限撤廃は含まれなかった。

このドタバタのトランプへの影響は?

トランプの求心力の限界が露出した。当初トランプに同調してつなぎ予算を潰した共和党の下院議員も、いざとなると予算削減の目的を達成するためにはトランプのいいなりにならなかった。

債務上限の概念はあまり意味を持たないため、それを撤廃すべきというのは妥当な主張かもしれないが、それを政府閉鎖間際に言い出しても議会としては現実問題として対応しようがなかった。結局、トランプは単に騒いだだけで成果をあげられず、大統領就任後の先が思いやられるだけの顛末となった。

下院議長ジョンソンへの影響は?

このドタバタで一番深い傷を負ったのはジョンソン議長である。

彼はもともと議長になるはずではなかった。2023年10月に共和党の一部の議員が自党の議長を解任するという騒動を起こすと後任が3週間も決まらないという迷走劇が繰り広げられ、ジョンソンは火中の栗を拾う形で議長に就任した。

今回のドタバタではジョンソンの経験不足が露出した。彼は共和党内で十分根回しをしないまま民主党との交渉を進めたことから、同党所属の議員の多くがつなぎ予算の内容を把握しておらず、たとえば議員歳費の増加が含まれていることが知られるようになったのは、つなぎ予算案が17日に公表された時だった。

このことによって、1月3日に開会される次の国会でジョンソンが議長として継続できるかが危うくなってきた。共和党の過半数は今の3議席から1議席に縮まり、今回の騒ぎの結果、共和党所属の議員1人がすでにジョンソン不支持を表明している。もう1人共和党議員が反対すればジョンソンは議長になれなくなるが、2023年秋に3週間も議長を決められなかった共和党がジョンソン以外の議長候補の下でまとまれるとは考えにくい。

2025年のアメリカの政界は波乱の幕開けとなりそうだ。

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