大統領選と共に行われる上院選〜民主党が過半数を失うのはほぼ確実〜

大統領選と共に行われる上院選〜民主党が過半数を失うのはほぼ確実〜

大統領選と共に連邦上院議員の選挙も行われる。ここでは、大統領選の結果にかかわらず、民主党が上院で過半数を失うことがほぼ確実であることを解説して行く。

上院選の背景は?

連邦上院選は州単位の選挙で、2年ごとに1/3の議席が改選を迎える。今年は33議席が改選されるが、無風選挙を除く11州の選挙しか注目されていない。

現状は、民主党が51議席(民主系無所属の4人を含む)、共和党が49議席。上院での表決が同数になった場合に決定票を投じるのは副大統領なので、共和党は大統領選でドナルド・トランプが勝利すれば1議席増で過半数を獲得し、カマラ・ハリスが勝利すれば2議席増で過半数を獲得する。

もっとも、今回の選挙では、共和党の牙城であるウエストバージニア州(West Virginia)で3期議席を守り続けた民主党の現職が引退する。民主党がこの1議席失うことは確実であるため、共和党はもう1議席増やせれば上院で過半数を獲得する。

民主党は改選を迎える多くの議席が大統領選でトランプが勝利する可能性が高い州にあるため、過半数を維持するためには、投票者が大統領選と上院選で違う政党の候補者に一票を投じるSplit Ticket Votingに頼るしかない。昨今Split Ticket Votingが稀になってきていることが、民主党が過半数を維持するのを難しくしている。

共和党が民主党の議席を奪う可能性が極めて高い州はどこ?

モンタナ州(Montana)は共和党の牙城だが、民主党の現職ジョン・テスター(Jon Tester)が3期18年間議席を守りつづけ4期目を目指している。

2020年の大統領選での同州におけるトランプの勝利の差は16%。リアル・クリア・ポリティクス(Real Clear Politics(RCP))の世論調査の平均によると、今年の大統領選でもトランプは同等の差で勝利しそうであることから、テスターが再選するためには、トランプに投票する6人に1人がテスターに投票する必要がある。

これは相当ハードルが高い。実際、RCPの世論調査の平均によると、テスターは共和党の新人相手ティム・シーヒー(Tim Sheehy)に7.0%のリードを許している。これまで踏ん張ってこれたテスターもとうとう落選しそうだ。

ここで共和党が勝利すれば、(フロリダまたはテキサスで共和党の現職が落選しない限り)共和党が上院で過半数を獲得する。

共和党が民主党から奪う可能性が高い州はどこ?

トランプ台頭以来、白人労働層が多いオハイオ州(Ohio)では共和党寄りが加速しているが、民主党の現職であるシャロッド・ブラウン(Sherrod Brown)が3期18年間議席を守りつづけ今回4期目を目指す。

ブラウンの思想は決してオハイオ州の有権者と相性が悪いわけではないが、2020年、2016年とも大統領選ではトランプが同州で8%の差で快勝しており、RCPの世論調査の平均によると、今年の大統領選でも概ね同等の差で勝利しそうである。ブラウンが再選するためには、トランプに投票する10人に1人がブラウンに投票する必要がある。

これは決して楽ではない。RCPの世論調査の平均によると、現在ブラウンは共和党の新人バーニー・モレノ(Bernie Moreno)相手に2.6%リードしているが、最近じわじわと差を縮められており、ブラウンの再選が極めて危うくなってきている。

共和党と民主党が拮抗している州はどこ?

大統領選において最も重要な激戦州はラストベルトにある3つの州で、すべてにおいて拮抗している上院選もある。これらの行方は大統領選に影響されそうだ。

ペンシルベニア州(Pennsylvania)

民主党現職のボブ・ケイシー二世(Bob Casey, Jr.)が4期目を目指す。

ケイシーは2006年に共和党の現職を17%もの大差で下し、2012年には9%、2018年には13%の差で比較的安定した戦いを展開してきたが、今回は同州が大統領選で最も重要な激戦州となっていることで、上院選にも共和党が相当なリソースを投入している。

RCPの世論調査の平均によると、大統領選ではトランプとハリスが引き分け状態である一方、ケイシーは共和党の新人デイビッド・マコーミック(David McCormick)相手に3.8%リードしている。これが正しいとするとケイシーはトランプ票の一部に食い込めており、ケイシーの再選は現職の力を生かして2〜3%のSplit Ticket Votingを実現できるかにかかっていそうだ。

ミシガン州(Michigan)

4期24年勤めた民主党の現職が引退したため、ここでの対決は民主党の現職連邦下院議員エリッサ・スロットキン(Elissa Slotkin)対共和党の元職連邦下院議員マイク・ロジャース(Mike Rogers)の新人同士となった。

RCPの世論調査の平均によると、大統領選ではトランプがハリスを1%でリードしている一方、上院選ではスロットキンがロジャース相手に2.2%リードしている。スロットキンはトランプ票の一部に食い込めているようだが、現職でないため、トランプがこの州で勝利した場合、ロジャースがトランプの勝利にあやかることを許してしまうリスクがある。スロットキンが民主党の議席を守れるかは、大統領選の結果に左右される可能性がある。

ウィスコンシン州(Wisconsin)

民主党現職のタミー・ボールドウィン(Tammy Baldwin)が3期目を目指す。

RCPの世論調査の平均によると、大統領選ではトランプとハリスが引き分け状態である一方、上院選ではボールドウィンが共和党の新人エリク・ホブディ(Eric Hovde)相手に2.7%リードしている。一見ボールドウィンはトランプ票に食い込めているように見えるが、最近のボールドウィンの数字は下落傾向にあり、このまま行くと、ボールドウィンの勝敗は大統領選の結果と直結する可能性が高まる。

低いながらも、共和党が民主党から議席を奪う可能性がある州はどこ?

大統領選におけるサンベルトにある激戦州のうち、2つの州の上院選が注目される。

ネバダ州(Nevada)

民主党現職のジャッキー・ローゼン(Jacky Rosen)が2期目を目指す。

RCPの世論調査の平均によると、大統領選は接戦であるものの、上院選ではローゼンが共和党の新人サム・ブラウン(Sam Brown)相手に5.5%リードしている。ローゼンにとっては決して安心できないリードだが、ブラウンは苦戦しており勝てる雰囲気ではない。

アリゾナ州(Arizona)

6年前に民主党候補として初当選しその後離党した現職が引退。今回は、民主党の現職連邦下院議員ルーベン・ギャレゴ(Ruben Gallego)対共和党の元キャスターリッキー・レイク(Ricki Lake)の新人同士の戦いとなる。

RCPの世論調査の平均によると、大統領選では若干トランプがリードしているものの、上院選ではギャレゴがレイクに6.9%リードしている。レイクは2年前の知事選に出馬し僅差で負けたことから知名度が高く思想もトランプ寄りだが、レイクにトランプの真似はできず多くのトランプ票がギャレゴに流れている。ここでは民主党が議席を守る可能性が高い。

僅かながらも、共和党が民主党から奪う可能性がある州はどこ?

メリーランド州(Maryland)は民主党の牙城だが、今回の選挙では3期18年務めた現職が引退し、昨年まで知事を務めていた共和党のラリー・ホーガン(Larry Hogan)が出馬したことで、僅かながら共和党の勝利の可能性が出てきた。

同州では、2020年の大統領選でジョウ・バイデンが33%の差でトランプを圧倒し、今回も同等の差でハリスが勝利することが想定される。よって、ホーガンが民主党の新人アンジェラ・オルソブルックス(Angela Alsobrooks)に勝利するためには、大統領選でハリスに投票する4人に1人がホーガンに投票する必要がある。これは至難の技で、実際、RCPの世論調査の平均によるとホーガンはオルソブルックスに9.5%リードされている

ホーガンが勝利するようなことがあれば、上院選どころか大統領選でも民主党は惨敗しているだろう。ここでは民主党が議席を守る可能性が高い。

民主党が共和党から議席を奪う可能性がある州はどこ?

大統領選で「注目の州」に指定しているフロリダ州とテキサス州では割と近い上院選が展開されている。どちらも共和党寄りの州で現職が再選を目指しているので、共和党が議席を落とすようなことがあれば、大統領選でトランプが完敗してもおかしくないほど共和党が苦戦している可能性が高い。

フロリダ州(Florida)

現職であるリック・スコット(Rick Scott)が民主党の元連邦下院議員デビー・ムカセル・パウエル(Debbie Mucarsel-Powell)相手に2期目を目指す。

知事を2期8年務めたスコットは選挙に決して強いわけではないが、同州は最近共和党寄りになりつつあり、大統領選でもトランプが有利なので、再選するだろう。RCPの世論調査の平均によるとスコットは6.0%リードしている

テキサス州(Texas)

現職であるテッド・クルーズ(Ted Cruz)がコリン・オールレッド(Collin Allred)相手に3期目を目指す。

クルーズはもともとあまり人気がなく、6年前は2.6%と驚くほどの僅差で再選している。共和党寄りの州だが近年民主党が追い上げており、オールレッドは手応えのある相手だ。ただ、RCPの世論調査の平均では大統領選でトランプが6%リードしておりクルーズも4.0%のリードを維持できているので、最終的にはクルーズが逃げ切ると思われる。6年後こそ、更なる民主党化が進んでクルーズは本当に落選の危機にあるだろう。

他に注目されている州はどこ?

ネブラスカ州(Nebraska)では共和党の現職デブ・フィッシャー(Deb Fisher)が3期目を目指す。

同州はあまりに共和党の牙城で民主党は候補者を擁立しなかったが、無所属として出馬したダン・オズボーン(Dan Osborn)がフィッシャーの5倍ものテレビCMを流すことで思いの外健闘しており、世論調査は僅差を示唆している

オズボーンは民主党と距離をおいているため、オズボーンの勝利は必ずしも民主党系の議席になるとは限らない。だが、無所属が当選することがまずないアメリカでオズボーンが勝てるかもしれないことは注目に値する。

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