トランプによる労働統計局局長の解任〜連邦準備制度理事議長も解任され経済界が不安と混乱に陥るか〜

トランプによる労働統計局局長の解任〜連邦準備制度理事議長も解任され経済界が不安と混乱に陥るか〜

2025年8月2日(現地時間)、ドナルド・トランプ大統領は雇用統計が気に入らないという理由で労働統計局(Bureau of Labor Statistics、通称BLS)の局長を解任した。この数ヶ月間、トランプ大統領は連邦準備制度理事議長(Chairman of the Federal Reserve Board、通称FRB)の解任を仄めかしていたことから、ここではBLS局長とFRB議長を解任する大統領権限を説明し、解任騒動による経済界への影響を解説していく。

なぜトランプ大統領はBLS局長を解任したの?

8月2日(現地時間)にBLSが予想を下回る7月の雇用統計を公表し、5月・6月の雇用統計も下方修正したからだ。BLSは雇用統計や消費者物価指数など市場に影響を与える重要な指標を提供する行政機関である。

BLSが公表した具体的な統計は次のとおりであった。

  • 7月は予想の10万人雇用増を大きく下回る7.3万人雇用増
  • 6月は以前公表された14.7万人雇用増から1.4万人雇用増への下方修正
  • 5月は以前公表された14.4万人雇用増から1.9万人雇用増への下方修正

以前公表された統計が新たなデータに基づいて修正されることは毎月行われているが、25.8万人もの修正は通常より大きい。

トランプ大統領は根拠なしに「数字が不正だ(rigged)」と主張し、エリカ・マッケンターファー局長(Erika McEntarfer)を「バイデン政権の人物」であることを理由に即時解任した。

トランプ関税による経済への影響が注目されている中、雇用統計は関税が景気に悪影響を及ぼしている根拠となり得るため、トランプは敏感に反応したと思われる。

トランプはBLS局長をそんな簡単に解任できるの?

法律上はできる。こちらで解説しているとおり、アメリカの行政の仕組み上、大統領が任命・解任できる政治職は極めて多く、BLS局長もその1つである。

BLS局長は大統領が連邦上院の承認の下で任命する任期4年のポスト。マッケンターファーは2023年1月に当時のジョウ・バイデン大統領に任命され、これがトランプによる「バイデン政権の人物」の主張につながっている。だが、定数100人の上院の中で86人の圧倒的多数がマッケンターファーの任命を承認しており、賛成した議員の中には(当時議員だったJDバンス現副大統領を含む)共和党議員が多くいたので、政治的な任命だったという根拠は薄い。

BLS局長はよく解任されるポストなの?

BLS局長は行政の仕組み上政治職ではあるものの、統計の政治的独立性を尊重する観点からこれまでは政治的なポストと見做されておらず、局長が解任されるのは前代未聞の出来事である。

トランプは統計結果が気に入らないことを罷免の理由に挙げており、このような政治的干渉はこれまでの不文律を破ることとして懸念されている。実際、トランプが第1期目に任命した元BLS局長や共和党所属の連邦上院議員の一部といったトランプの身内もマッケンターファーの解任を批判している。

BLS局長の解任はFRB議長とどのように関係するの?

トランプ大統領は7月からFRB議長であるジェローム・パウエル(Jerome Powell)の解任を仄めかしており、BLS局長の解任もFRB議長の解任もトランプによる経済への政治的介入の延長線上にあると考えられる。

トランプはFRB対して短期金利の引き下げを求めているが、FRBは雇用統計が景気の好況を示していたこともあり、金利を維持し続けた。トランプはそれに反発し、FRBに対する政治的圧力を強めるために、パウエル議長の辞職を促したり、解任を示唆する発言を繰り返していた。

トランプはFRB議長を解任できるの?

BLS局長と異なり、FRBの理事や議長は大統領の任意によって解任できない。

アメリカの行政の仕組み上、独立性が重視されているいわゆる行政執行機関については、大統領に任命権がありながらも、解任権は「for cause(効率性の欠如、職務怠慢、職権乱用などの正当な事由)」がある場合に限られている。

トランプはパウエル議長を解任する予定はないと発言しているが、FRB本部の改修費用の大幅増加をパウエル議長の管理不行き届きとみなし解任の根拠にしようとしている節がある。

今後、経済界はBLSとFRB関係でどのようなことに注目しそうなの?

経済界はトランプによる経済への政治的な介入を歓迎していない。よって、今後BSLとFRBの人事でトランプがどれほどの影響力を発揮するかが注目されると思われる。

まずBLS局長については、マッケンターファー解任後副局長が局長代理に就任したが、トランプは任意に局長代理を交代させることができる。また、トランプは新たなBLS局長を指名し、その人物は連邦上院に承認される必要がある。局長代理や次期局長がトランプのいいなりになりそうであれば、経済界は懸念を示すだろう。

FRBについては、トランプがどれほど影響力を強められるか・強めようとするかが注目される。8月1日(現地時間)、FRBの理事1人が2026年1月の任期満了を待たずに辞任すると表明した。後任はトランプが上院の承認の下で任命するので、FRBに対するトランプの影響力か強まることは確実である。トランプがさらに踏み込んでパウエル議長を解任するようなことがあれば、経済界で不安と混乱が広がることが推測される。

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