2025年10月16日(現地時間)、元国家安全保障担当補佐官(National Security Advisor)のジョン・ボルトン(John Bolton)が、機密防衛情報を不正に送信・保有した容疑で起訴された。ここでは、ボルトンが起訴されるまでの経緯、最近起訴された元アメリカ連邦政府捜査局(Federal Bureau of Investigation、通称FBI)長官ジェームズ・コミーとニューヨーク州司法長官レティシア・ジェイムズ(Letitia James)の事件と異なり背景にはドナルド・トランプ大統領の報復以外もあること、そしてボルトンが有罪になる可能性について解説していく。
簡潔にまとめると、何が起こったの?
10月16日、ボルトンは機密防衛情報を送信し不法に保有した容疑で起訴された。起訴内容によると、ボルトンはホワイトハウスや安全区域などでの出来事を手書きで記録し、その内容を私用のパソコンに転記していた。さらに、私用メールを使って、1000ページを超える機密情報を親族に送信したとされている。
ボルトンは、ジョージ・W・ブッシュ政権下で国連大使を務め、第1期トランプ政権で国家安全保障担当補佐官を務めた人物。強硬な外交・安全保障政策を主張する“ネオコン”として知られる。北朝鮮に対して柔軟な姿勢を取ったドナルド・トランプ大統領と対立し、2019年9月に解任された。
ボルトンは2020年にトランプ政権を激しく批判した回顧録を出版したことで、トランプの標的となっていた。
起訴に至るまでどのようなことがあったの?
ボルトンに対する捜査は、第1期トランプ政権中に回顧録の出版をめぐって始まった。
2020年、トランプ政権は「回顧録には機密情報が含まれている」として出版の差し止めを求める民事訴訟を起こした。しかし、裁判所はこの主張を退け、回顧録は最終的に出版された。その後、2021年6月にバイデン政権は、回顧録をめぐるボルトンに対する捜査を打ち切った。
同じ時期、ボルトンのメールアカウントがイラン政府系ハッカーによって侵入された。ボルトンはハッキング被害を政府に報告したものの、機密情報の流出については説明を行わなかったとされている。2022年、バイデン政権はイランによりサイバー攻撃に関する捜査を開始した。
2025年1月に第2期トランプ政権が始まった頃には、ボルトンに対する証拠が十分集まっていた。8月、アメリカ連邦政府捜査局(Federal Bureau of Investigation、通称FBI)は令状を取得してボルトンの自宅およびオフィスを捜索し、ボルトンの自宅からは、機密情報を含む書面が押収された。
今回の起訴は、イランによるサイバー攻撃を契機に発覚したボルトンの機密情報取り扱いが対象であり、回顧録に含まれる内容は対象外と起訴状に明記されている。
コミーやジェイムズの刑事事件とどう異なるの?
コミーやジェイムズの起訴がトランプ大統領による報復とみなされているのに対し、ボルトンの起訴は状況が決定的に異なる。
まず、ボルトンを起訴したのは、メリーランド州地検に所属するキャリア職の検事である。以前解説したとおり、コミーの起訴もジェイムズの起訴も、キャリア職検事の賛同が得られないまま、トランプ大統領と個人的関係を持つ政治任用の検事長官(U.S. Attorney)が単独で起訴に踏み切った点が特徴だった。それとは異なり、ボルトンの起訴はキャリア職の検事によって行われている。
また、この事件の捜査はバイデン政権時代に始まっており、起訴するに先立って裁判所が捜査令状を発付し、FBIは令状に基づいて重要な証拠を押収している。
よって、ボルトンの事件は通常の検察制度の枠内で進んだ起訴であり、トランプ大統領による検察への介入が強く疑われるコミーやジェイムズの事件とは性質が大きく異なる。
ボルトンが有罪判決を受ける可能性はどれほどあるの?
FBIは、ボルトンの自宅から押収した証拠だけでなく、メールサービスのプロバイダーなどからも、令状に基づいて証拠を押収している。ボルトンに対しては有力な証拠がそろっているとみられ、コミーやジェイムズの事件と比べると、有罪判決を受ける可能性はかなり高い。
検察側は、ボルトンが意図的に機密情報を不正に取り扱ったことを立証する必要がある。ボルトンは機密情報管理の専門家として頻繁にメディア出演しており、2016年大統領選時に民主党候補だったヒラリー・クリントン元国務長官による私的サーバー使用を批判していた。この事実は、検察側にとってボルトンの「意図」を立証する有力な証拠となり得る。
なお、ボルトンはトランプに政治的な理由で標的にされたと主張することが想定されるが、上記の経緯から、この主張が認められる可能性は低い。この点でも、コミーやジェイムズの事件とは明確に異なっている。