元FBI長官ジェームズ・コミーの起訴〜トランプ大統領による圧力の背景〜

元FBI長官ジェームズ・コミーの起訴〜トランプ大統領による圧力の背景〜

2025年9月25日アメリカ連邦捜査局(Federal Bureau of Investigation、通称FBI)の元長官ジェームズ・コミー(James Comey)が起訴された。ここでは、なぜコミーが起訴されたのか、ドナルド・トランプ大統領がどのようにコミーが起訴されるよう検察に圧力をかけたのか、起訴の経緯がどうして異常だったのか等について解説していく。

簡潔にまとめると、何が起こったの?

2025年9月25日、コミーはアメリカ連邦政府の検事に起訴された。

起訴内容は、2020年9月30日の連邦上院司法委員会において、コミーが共和党議員テッド・クルーズ(Ted Cruz) からの質問に対して、「匿名で報道機関に情報を提供することを許可したことはない」旨の虚偽証言をしたというものだ。

コミーとトランプ大統領は長年に渡って対立してきた。コミーがFBI長官を務めていた時、FBIはロシア政府がトランプ陣営と共謀して2016年の大統領選に干渉した可能性について捜査しており、トランプは2017年5月にコミーを解任した。

起訴に至るまでどのようなことがあったの?

この事件では、通常なら形式的な手続きである大陪審による承認の一部が得られなかったという異常な経緯を経ている。

アメリカ連邦政府が起訴する重大な刑事事件(felony)においては、アメリカ連邦憲法上、検察側が大陪審(grand jury)に証拠を提示して起訴を承認してもらう必要がある。大陪審の審査の基準は「起訴に足る蓋然性(probable cause)があるか」と低く、そもそも検察側は起訴に相当する事件しか大陪審の審査にかけないので、大陪審が起訴を承認しないことは極めて稀である。

今回の事件においては、検察側が大陪審に起訴申請した3件のうち、1件が承認されず残りの2件が陪審員23人中14人の賛成により承認された

起訴申請に先立って検察内部では、本件は「起訴に足る蓋然性」を立証できるだけの証拠がないとするメモが展開されていた。有罪判決を得るどころか起訴する証拠さえ不十分だとするメモは異常で、それでも大陪審への起訴申請がなされたのはトランプ大統領からの政治的な圧力があったからだと言われている。

なぜ大統領は起訴するよう圧力をかけられるの?

アメリカ連邦政府の仕組み上、起訴するか否かの裁量を持つ検事は政治色が強いポストだからだ。

アメリカ連邦政府の検察は94の地検に区分されており、各地検のトップである検事長官(United States Attorney)は(連邦上院の承認の下)大統領に任命される。検事長官の任期は大統領の任期と同様4年であり、大統領が代わると検事長官は辞表を提出するのが慣習だ。また、大統領はいつでも検事長官代理を解任できる。

実際、コミーの起訴を管轄している地検の検事長官代理は、トランプに対して民事訴訟を起こしたニューヨーク州司法長官レティシア・ジェイムズ(Letitia James)を起訴することに躊躇したことでトランプの逆鱗に触れ、2025年9月19日に実質更迭された。トランプは後任として、検事としての経験がない彼の個人的な弁護士リンジー・ハリガン(Lindsey Halligan)を指名し、ハリガンがコミーの起訴を大陪審に申請した。

検察の動きが気に入らないトランプ大統領が検事長官を更迭するのは、ニューヨーク市長の起訴取り下げ騒動でもみられたことである。

コミーが有罪判決を受ける可能性はどれほどあるの?

大陪審の評決を踏まえると、可能性は低そうだ。

有罪評決には、陪審員12人が全員一致で「合理的疑いの余地なく(beyond a reasonable doubt)」犯罪が犯されたと判断する必要がある。起訴するにはより低い基準である「起訴に足る蓋然性」を満たせば十分であるにもかかわらず陪審員23人のうち9人がその基準を満たせていないと判断したので、全員一致でより高い基準が満たされていると判断するのは考えにくい。

さらに、トランプ大統領はコミーの起訴を強く支持する発言を繰り返しており、コミーの代理人は、そういった発言がコミーが政治的な理由で標的にされた証拠であるとして公訴棄却を求める可能性が高い。この主張が認められると、有罪・無罪判決が下される前に事件は終了することになる。

トランプ大統領が他にも起訴を求める可能性はあるの?

トランプ大統領は2024年の大統領選の時から「政治的な宿敵」に対して復讐することを示唆しており、9月20日、トランプはパム・ボンディ司法長官(Pam Bondi)に対してコミーやジェイムズに対する起訴を急ぐよう催促していた。

トランプ政権1期目と異なり、トランプ政権2期目の司法省と司法長官はトランプ大統領の言いなりなので、コミーの起訴はまだ第一歩にすぎない可能性は十分にある。

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