「エプスタイン・ファイル」未公開問題とトランプ支持者の反乱〜トランプ政権にとって致命傷となりかねず〜

「エプスタイン・ファイル」未公開問題とトランプ支持者の反乱〜トランプ政権にとって致命傷となりかねず〜

2025年7月上旬からアメリカの政界を独占している話題は「エプスタイン・ファイル」未公開問題。なぜ6年前に死亡したジェフリー・エプスタイン(Jeffrey Epstein)に関連する文書がトランプ政権の致命傷になりかねないかについて、エプスタインの犯罪歴やエプスタインに関する陰謀論、そしてこの問題に対するドナルド・トランプ本人、トランプ政権、連邦議会、トランプ支持者の反応を説明しながら解説していく。

そもそも、ジェフリー・エプスタインはどのような犯罪を犯したの?

エプスタインは金融業で成功を収めた富豪。複数の女性の証言によると、少なくとも2000年代からエプスタインは未成年の少女を自分自身の性的搾取の対象としていただけでなく、著名な富裕層・政治家・王族・ビジネスマンをプライベートジェットに乗せて自分が購入したアメリカ領ヴァージン諸島付近の島で売春を斡旋していたという。

2005年に14歳の少女が被害を訴えたことでフロリダ州が調査を始め、エプスタインは2006年にフロリダ州検察によって年少者買春勧誘の罪で起訴された。ただ、フロリダ州警察はこの起訴内容について不満を持ち、アメリカ連邦捜査局(Federal Bureau of Investigation、通称FBI)に捜査を促した。(連邦制のアメリカでは、アメリカ連邦政府と州それぞれに捜査機関、検察、そして裁判所がある)

2007年、アメリカ連邦政府の検察官はエプスタインを起訴するために53ページにも上る起訴状を作成したが、エプスタインの代理人との間で、州の起訴内容に対して有罪を認めれば連邦政府として起訴しないことを約束。この司法取引によりエプスタインは懲役18ヶ月の刑を受けるが、服役中1日12時間は刑務所を出て仕事をすることが認められ、結局13ヶ月後に釈放された。

2018年、フロリダ州の地元の新聞がエプスタインに関する特集を組み、それまで非公開だった司法取引と異常に軽い罰が明るみに出たことでエプスタインへの注目が高まる。結果、エプスタインは2019年7月に未成年の少女を性的人身売買した疑いで連邦政府に起訴されたが、裁判が始まる前の8月にニューヨークの拘置所の独房で死んでいる状態で発見される。医療検視官が自殺と判断したため、公式な死因は首吊り自殺。

トランプ支持者はなんでエプスタインに関心を示し、どのような陰謀論を信じているの?

トランプ支持者がトランプを支持する理由は様々あるが、多くの支持者に共通しているのは「既得権に対する反発」という面である。未成年買春斡旋という凶悪な犯罪を犯した(とされる)富豪が異様に軽い処罰を受けたことは不当な特別扱いを受けるエリートの象徴であり、トランプ支持者にとってエプスタインとその同胞は撲滅したい存在なのである。

エプスタインのプライベートジェットに乗った人物の搭乗記録は既に公開されており、そこにはビル・クリントン元大統領やイギリスのヨーク公爵アンドルー王子、そしてトランプの名前が載っている。彼らが機内で未成年少女と一緒だったいう証拠はない。だが、トランプ支持者はエプスタインが未成年少女買春を仲介した人物のリスト、いわゆる「顧客リスト」が存在しているはずだと信じており、このリストに載っている権力者の罪が暴かれることを求めている。

また、エプスタインの自殺に関しては、監視映像のうち2分53秒がカットされていることが判明しておりエプスタインを監視せず仮眠を取っていた看守2名が巡回記録を偽造したことを認めていることから、エプスタインは権力者を守るために暗殺されたのだという陰謀論が絶えない。

トランプ政権はエプスタインについてどのような約束をし、実際はどのような対応をしたの?

第2期トランプ政権の中枢にいる人の多くは、連邦司法省と連邦捜査局が保有するエプスタインに関連する文書、いわゆる「エプスタイン・ファイル」を公開することを約束していた。大統領選の時からトランプ本人が公開を示唆する発言をしていただけでなく、カシュ・パテル(Kash Patel)FBI長官やダン・ボンジーノ(Dan Bongino)FBI副長官も公開する重要性を訴えていた。

トランプ政権が始まった直後の2025年2月、パム・ボンディ(Pam Bondi)司法長官はあるインタビューにおいてエプスタインの「顧客リスト」が自分のデスクの上にあることを示唆。その後、ボンディは極右系インフルエンサー向けに「エプスタイン・ファイル第一部」を配布したものの、新情報はほとんどなかったことでトランプ支持者は拍子抜けした。

さらなる公開が期待されている中、司法省は2025年7月7日(現地時間)に、①「顧客リスト」は存在しない、②エプスタインは自殺した、③今後エプスタイン・ファイルの公開は行なわないことを公式的に発表した

この対応に対してトランプ支持者はどう反応しているの?

7月7日の司法省の発表に対し、トランプ支持者は猛反発している。

これまで何があっても揺らがずにトランプを支持していたインフルエンサーたちも、本件に関してはトランプ政権の批判を繰り広げており、司法省の発表から1ヶ月たった今でも彼らの怒りは収まっていない。トランプにとって、これほどの支持者の反乱は初めてである。

今のところ批判の的は概ねボンディ司法長官に向かっているが、トランプによる裏切りを主張している者もいる。その理由は、これまでトランプ本人がエプスタイン・ファイルを公開することを示唆してきたこともあるが、エプスタイン・ファイルの中にトランプの名前が複数回現れていることを2025年5月にボンディがトランプに報告したとウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が2025年7月23日に報道したことが影響していると思われる。

トランプは支持者の反乱に対してどのように反応しているの?

最初は「エプスタインはもう死んでいる。なぜ騒ぐのか」と無関心を貫こうとし、それでも批判が鎮まらないと、「エプスタイン・ファイルは民主党がでっち上げたものであり、こんなことを信じる人たちの支持はいらない」と開き直った。

トランプはこれまで都合の悪いことから支持者の目をそらすことに成功してきたが、エプスタイン・ファイル関係ではまったく効果がなく、結局トランプは7月17日(現地時間)、ボンディ司法長官に対してエプスタイン・ファイルの一部を裁判所の許可を得て公開するよう指示した

アメリカ連邦議会はどのように反応しているの?

共和党が過半数を維持している連邦下院はこれまでトランプ大統領に恭順的であったが、エプスタインの件においてはトランプの言いなりになっていない。

マイク・ジョンソン議長(Speaker Mike Johnson)はトランプ政権を支持する「主流派」として状況の鎮火を図っている。下院でエプスタイン・ファイルの公開を求める決議が提出されると、法的拘束力がない決議であるにも関わらず、ジョンソンは7月23日(現地時間)、9月2日までの夏季休会を前倒しで宣言することで決議の採決を回避した

それでも共和党の連邦下院議員の一部は文書公開を強く求めている。ジョンソンが夏季休会を宣言する直前、下院の副委員会の1つにおいて、エプスタイン・ファイルのすべてを下院に提出するよう司法省に命令する召喚状を発布するための決議が民主党議員から提議されると、複数の共和党議員が賛成し(民主党は過半数割れであるにもかかわらず)可決された。

8月5日(現地時間)、召喚状が司法省に送付された。さらには、クリントン元大統領の他第1期トランプ政権やバイデン政権においてFBI長官や司法長官を務めた元政府関係者にも証言を求める召喚状が送付された。こういった召喚状は三権分立の観点から拒否されるのが通常なので、召喚状がどれほど政権を揺らがすか見通せない。

今後、エプスタイン・ファイルが公開される可能性はどれほどあるの?

トランプ大統領にとっては、あまりに世論の風当たりが強く、身内の議員まで公開を求めているので、今後エプスタイン・ファイルの一部が公開される可能性は高い。

だが、それによってトランプ支持者の反発が収まるとは考えにくい。彼らはエプスタイン・ファイルのすべてが公開されることを求めているが、エプスタイン・ファイルには被害者の個人情報など機微性の高い情報が含まれているので、完全公開が実現することはないと思われる。

エプスタイン・ファイルが公開されると、トランプはどれほど困るの?

重要なことだが、エプスタイン・ファイルは「顧客リスト」とは異なる。トランプの名前がエプスタイン・ファイルに載っているからと言って、トランプが未成年少女の斡旋を受けていたことにはならない。

共に富豪であったトランプとエプスタインには昔から交流があった。2000年代に入ってから2人の関係に亀裂が入ったようだが、2人が一緒に写っている写真が複数見つかっており、2人ともお互いを友人と呼んでいた時期があったので、エプスタイン・ファイルにトランプの名前があっても驚きはない。

本件については、トランプが初動を間違えたと言える。都合の悪いことを即否定するのがトランプの定番手法だが、エプスタイン・ファイルを公開するのと同時に「自分は過去にエプスタインと交流があったのでファイルの中で名前が出てくるが、私は犯罪は起こしていない」と説明していれば大きな問題にならずに済んだ可能性がある。

この問題は今後トランプ政権にはどのような影響があるの?

エプスタイン問題はトランプ政権の致命傷となりかねない。

これまでどのようなスキャンダルがあってもトランプ支持者のサポートは不動だったが、今回ばかりはその状況が異なる。エリートの隠蔽を暴露してくれるという期待がトランプ支持者の原動力になっているので、時間が経ってこの問題についてほとぼりが冷めるとは考えにくい。

トランプ支持者の最終目的は「顧客リスト」に載っている権力者の罪が暴かれることである。そもそも「顧客リスト」は存在しないと考えられているが、トランプ政権が支持者の反乱を鎮火させるためには「顧客リスト」が存在しない証拠を出す、つまり「悪魔の証明」をすることが必要で、政権にとっては八方塞がりになりかねない。

さらに、エプスタイン・ファイルを公開することについては、アメリカ国民の6割以上が関心を示しており、9割近くが支持している。つまり、エプスタイン問題はトランプ支持層に留まる話ではないのだ。

第2期トランプ政権が発足してから野党の民主党は政策的にまったく対抗できてこなかったが、ここにきて格好な攻撃材料が出てきた。民主党内では陰謀論に便乗することについて慎重になるべきとの声があるが、エプスタイン・ファイルの公開を求めることで世論を代弁し共和党内を割れるので、今後民主党が追求を弱めるとは考えにくい。

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