テキサス州では、ドナルド・トランプ大統領の求めに応じて共和党が提案した連邦下院選挙区の区割り案に対し、民主党州議員が反発し他州に脱出した。ここでは、トランプがこの騒動を起こした背景、州議会が連邦議員の選挙区割りに関与する理由、民主党議員が他州に脱出しなければならなかった事情、そして区割り戦争が全国に広がっている状況などを解説していく。
簡潔にまとめると、テキサス州では何が起こっているの?
テキサス州の共和党は、同州の連邦下院選挙区の区割りを見直し、2026年に行われる次の中間選挙において共和党が獲得できる議席を増やそうとしている。これに対し民主党所属の州議員団は反発し、8月4日(現地時間)に他州へ脱出した。
この状況を踏まえ、グレッグ・アボット知事(Greg Abbott)は民主党所属州議員の拘束を命じるなど、強硬姿勢をとっている。
なんで連邦下院の選挙区を巡って州議会で紛争が起こるの?
連邦制のアメリカでは、連邦下院選挙区の区割りは州の法律によって定められるためである。
特定の党が州議会と知事職を支配していると、自党に有利になるよう区割りを操作することができる。これが「ゲリーマンダー(gerrymander)」と呼ばれる問題である。
通常、選挙区は10年ごとに行われる人口調査の結果を踏まえて再編されるが、それ以外の時期に区割りを見直すことは原則として妨げられない。
なぜテキサス州の共和党はここにきて区割りの見直しを始めたの?
共和党は2024年の連邦下院議員の選挙において僅差(5議席)で過半数を獲得しており、次の中間選挙では議席を減らすことが予想されている。トランプ大統領は下院で過半数を失うと政権運営に大きな影響を及ぼすので、テキサス州の共和党に対して、(通常の選挙区再編成の時期ではないにもかかわらず)共和党が獲得できる議席を増やすため区割りを見直すよう求めた。
テキサス州には連邦下院議員の議席が38割り当てられており、2024年の選挙では共和党が25議席、民主党が13議席獲得した。トランプ大統領の要請に応じて共和党が提案した区割りが導入されると、共和党は5議席増やせると試算されている。
なぜ民主党所属のテキサス州議員は他州へ脱出したの?
共和党がテキサス州上院、州下院双方を支配しており、知事も共和党所属であることから、立法プロセス上、区割り案が採決されると成立するのが確実だった一方で、民主党としては採決自体を阻止することが可能だったからだ。
定数31の州上院では共和党が20議席・民主党が11議席維持しており、定数150の州下院では共和党が88議席・民主党が62議席維持している。少数派である民主党は区割り案が議会で可決されることを阻止できないが、共和党の議員のみでは議決を行うために必要な最小限の出席者数、いわゆる定足数を確保できないので(上院の定足数は21人、下院の定足数は100人)、民主党議員は議会への出席を拒否することで議会の進行を止めた。
出席を拒否するだけでなく他州へ脱出したのは、州内に残っているとテキサス州の法律に基づいて州議会の守衛官(Sergeant-at-Arms)に拘束され議会への出席を強制される可能性が高かったからである。
民主党の議会出席拒否に対して共和党は何ができるの?
州議会は守衛官に対して出席を拒否している民主党州議員を拘束する議決を可決し、アボット知事も州警察に対して州議員を拘束する命令を下したが、いずれも州内にしか影響を及ぼさないので、実質無意味な行為である。
アボット政権は出席を拒否している一部の議員を除籍することを求める訴訟を起こしたが、テキサス州最高裁判所は過去の判決において州議員の出席拒否は除籍の事由とならないことを明確にしているため、これが認められる可能性は低い。
今後、アボット知事はトランプ政権に対して、連邦捜査局(Federal Bureau of Investigation、通称FBI)が他州に所在する議員を拘束することを求める可能性があり、トランプ大統領もこれに前向きな発言をしている。ただ、連邦制のアメリカにおける連邦捜査局の役割は主に連邦法の執行であり、選挙区割りは州法の問題であることから、たとえ連邦捜査局が関与しようにもそれを連邦裁判所が認めるとは考えにくい。
では、民主党の議員はいつまでも出席を拒否し続けられるの?
理論上はできるかもしれないが、現実的には難しい。
テキサス州の法律上、議員は出席を拒否することで毎日$500(約7万円)の罰金が課されるが、この問題が注目されるようになったことで資金が全国の民主党支持者から集まってきているので、罰金を支払うことは大きな負担にならないと思われる。
議員にとってより大きな問題なのは、日頃の仕事である。アメリカでは州議員は副業であり、これは報酬に表れている。たとえば、テキサス州下院議員の年収は$7,200(約100万円)で、本業なしには生活していけない。個人事業主であってもテキサス州内で事業を展開していると思われ、家族もテキサスに残っていることを鑑みると、(資金が集まっているとはいえ)どの議員もいずれはテキサス州に戻らざるを得ない。
アボット知事はいつでも州議会を招集することができるので、民主党議員はテキサス州に戻り次第、即座守衛官によって強制的に議会に出席させられ、いずれ議会の定足数は満たされるようになる。
出席を拒否する戦術が過去に効果を上げたことはあるの?
テキサス州では1870年からこの戦略が取られ、最近では2003年と2021年に民主党がこの戦略を取った。だが、2003年、2021年とも6週間程度で民主党議員の一部が折れて議会に出席したことで、民主党が反対していた法案は成立した。
他の州では共和党もこの戦略を取っており、オレゴン州においては一定の成果を上げたことがある。
テキサス州で共和党に有利な区割りが実現したら、民主党は他の州で反撃に出るのでは?
実際、すでに「区割り戦争」が全国的に起こりそうな雰囲気である。
カリフォルニア州は民主党が議会を支配しており、知事も民主党所属である。テキサス州で区割りが行われた際、カリフォルニア州は民主党に有利になる区割りを行うことをギャビン・ニューサム知事(Gavin Newsom)が表明している。同州は区割りの権限を独立した委員会に委ねているが、ニューサム知事は区割りの権限を一時的に州議会に戻すことを住民投票にかけると発言した。
他方、JD・バンス副大統領は共和党が支配しているインディアナ州を訪問し、議会に区割りを見直すよう働きかけた。また、フロリダ州等でも区割りの見直しが検討され始めている。
トランプ大統領がテキサス州で火をつけた区割り騒動は、全国に広がり泥沼化する兆しを見せている。