2025年8月29日(現地時間)、連邦巡回控訴裁判所はドナルド・トランプ大統領が国際緊急経済権限法に基づいて課した関税について違法であるとの判断を下した。ここでは、なぜ裁判所がトランプに課税権限がないと判断したのか、なぜこの判決を踏まえても関税は当面効力を持ち続けるのか、そして連邦最高裁が最終的に関税を無効にする可能性について解説していく。
簡潔にまとめると、何が起こったの?
トランプ大統領は2期目就任後、複数の大統領令を通して、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて「膨大な貿易赤字がもたらす国家的緊急事態」を宣言し、カナダ・メキシコ・中国をはじめとする主要貿易相手国からのほぼ全ての輸入品に対して新たな関税を課した。
2025年5月、連邦国際貿易裁判所(Court of International Trade、通称CIT、関税に関する訴訟を専属的に処理する連邦裁判所)は中小企業5社と12州が起こした訴訟において、大統領はIEEPAに基づいて関税を課すことはできないと判断し課税を無効化した。
トランプ政権は直ちにCITの判決を連邦巡回控訴裁判所(Federal Circuit Court)に上訴し、同裁判所は2025年8月29日、7対4の多数でCITの判決を維持した。
控訴裁判所は、トランプ大統領による緊急事態宣言は否定しなかったものの、アメリカ連邦憲法上、関税の権限は連邦議会に与えられていることを強調。IEEPAには「関税(duties)」や「税(tax)」への言及がなく、従来の大統領は制裁を課すためにIEEPAを活用していたことから、連邦議会はIEEPAを通して関税や課す権限を大統領に付与していないと判断した。その上で、裁判所は「重大な問題の法理(major questions doctrine)」を適用させ、トランプ関税のような政治的および経済的に重大な影響を伴う決定には連邦議会によって明示的に権限が与えられている必要があるとした。
過去に、緊急事態宣言を基に関税が課された事例はないの?
1つ有名な先例がある。
1971年、リチャード・ニクソン大統領(Richard Nixon)は大統領令を通じて通貨不均衡に関する緊急事態を宣言し、10%の追加関税を課した。日本のファスナーメーカー吉田工業(現YKK株式会社)のアメリカ現地法人はこの追加課税が違法であると主張して提訴したが、連邦関税特許控訴裁判所(連邦巡回控訴裁判所の前身)はニクソンの追加課税は対敵通商法(Trading with Enemies Act)に基づいて合法であると判断した。
対敵通商法はIEEPAの前身なので、トランプ政権は裁判所に対して吉田判例の踏襲を求めた。だが、裁判所はニクソンの追加関税が5ヶ月後に撤回されており、税率は連邦法が定めていた上限を超えず、対象も限定的であったことから、トランプ大統領が課した無期限・大規模・広範囲の関税とは性質が異なると区別した。
この度の判決によってトランプ関税は無効となったの?
当面、トランプ関税は効力を持ち続ける。
まず、控訴裁判所はトランプ政権が連邦最高裁に上告することを想定し、判決の効力を保留した。連邦最高裁が関税の合法性について判断する来年の春か夏まで、関税は維持されるだろう。
また、重要なこととして、裁判所が無効としたのはIEEPAに基づいた関税のみである点がある。こちらで解説したとおり、大統領は5つの法令条文に基づいて明示的に関税を課す権限を有する(裁判所の判決のとおり、IEEPAでは明示されていない)。これらの法律に基づいた関税であれば合法性は高く、実際、トランプ大統領はアルミや自動車の関税についてはIEEPAではなく1962年通商拡大法232条を法的根拠としている。
最高裁がトランプ関税を無効にする可能性はどれほどあるの?
この訴訟は、連邦最高裁の近年の傾向の狭間にあるので、見通しが難しい。
トランプ台頭以降、最高裁は大統領権限を広く解釈するようになっている。トランプ大統領は今回、緊急事態を宣言した上で関税を必要な国際経済政策対応であるとしているが、大統領による緊急事態宣言や国際経済政策は連邦裁判所として関与したくない事項である。
他方、最近の最高裁は行政法の観点で大統領の権限を抑制する傾向にあり、大統領が政治的又は経済的に重大な問題において政策を策定する際には、大統領権限が法律に明示されていることを求めるようになっている。
たとえ最高裁がIEEPAに基づく関税課税権限を否定しても、トランプ大統領は他の多くの関税課税権限を有する。IEEPAに基づく関税課税権限を認めると無限な大統領権限の拡大になりかねないので、最高裁はIEEPAに基づく関税を否定し、他の法律に基づいて関税を課すよう促すことになるかもしれない。