2026年11月、アメリカでは連邦下院の全議席と連邦上院の1/3の議席が改選される中間選挙が行われる。ここでは、なぜドナルド・トランプの支持率が低迷しているにもかかわらず、民主党が上院で過半数を奪還するのが難しいのかを、注目される州の分析を交えて解説していく。
連邦上院選の背景は?
連邦上院選は州単位の選挙で、2年ごとに1/3の議席が改選を迎える。2026年11月の中間選挙では2つの補選を含め35議席が改選されるが、無風と見られている選挙を除くと、実際に勝敗が注目されるのは10州程度に限られる。
現状は、共和党が53議席、民主党が47議席(民主系無所属の2人を含む)。上院での表決が同数になった場合に決定票を投じるのは副大統領なので、民主党が過半数を獲得するためには、少なくとも4議席を上積みする必要がある。
今回注目されている議席の多くは大統領選でトランプが勝利した共和党寄りの州にあるため、民主党が過半数を獲得する道のりは険しい。一方で、民主党は2025年に実施された連邦下院の補選や知事選等での一定の手応えや、低迷しているトランプ大統領の支持率を背景に、わずかながらの希望を見出している。
民主党が連邦上院で過半数を奪還するための道筋は?
結論から言えば、民主党は現有議席を守ることができても、4議席を上積みするのは極めて難しい。
まず、民主党は現在有している議席をすべて守る必要がある。民主党が失う可能性があるのは、2024年大統領選でトランプ大統領が勝利したジェージア州とミシガン州、そしてトランプがカマラ・ハリス副大統領(Kamala Harris)を追い上げたニューハンプシャー州とミネソタ州である。トランプ大統領の支持率が低迷したままであれば、民主党がこれらの議席を守る可能性は高い。だが、1つでも取りこぼせば、過半数獲得はほぼ不可能となる。
民主党は自らの議席をすべて守っても、共和党から4議席奪う必要がある。奪還できる可能性が最も高いのは、2024年大統領選でハリスが勝利したメイン州と接戦の末にトランプ大統領が勝利したノースカロライナ州である。
民主党にとっての課題は、残りの2議席をどこで拾うかである。
民主党は、有力な元職が出馬しているオハイオ州、共和党が分裂状態のテキサス州、有力候補の出馬が期待されているアラスカ州、有力な無所属候補が出馬したネブラスカ州に期待を寄せるが、どの州も共和党が強いのでハードルが高い。
さらに、民主党としては従来激戦州だったアイオワ州やフロリダ州も視野に入れたいところだが、どちらの州も近年は共和党寄りに傾いているため、民主党が勝利するのは極めて厳しい。
以上のような構造的要因から、トランプ大統領の支持率が低迷しても、民主党が連邦上院で過半数を獲得するのは極めて困難だと見られている。
民主党が死守しなければならない州の見込みは?
結論としては、4州すべてで民主党が優位であると考えられる。
2024年大統領選でトランプが勝利した州で、民主党現職のジョン・オソフ(Jon Ossoff)が再選を目指す。
共和党は人気の高い州知事ブライアン・ケンプ(Brian Kemp)が出馬しないと表明したことで、決定打を欠く展開となった。現職連邦下院議員2人と元大学アメフト監督の3人が出馬を表明しており、夏の予備選を勝ち抜いた候補者がオソフに挑む。
2020年の上院選では民主党のオソフが1.2%の差で勝利、2022年の上院選では民主党現職が2.8%の差で再選、2024年大統領選では共和党のトランプが2%の差で勝利したため、この選挙は接戦となると思われている。ただ、トランプ大統領の支持率が低迷しており、ケンプが出馬しなかったことが、オソフ再選の確率を高めている。
2024年大統領選でトランプが勝利した州で、民主党の現職が引退を表明。共和党は議席を奪う絶好のチャンスと見ている。
共和党は、候補者を2024年上院選で惜敗した元連邦下院議員マイク・ロジャース(Mike Rogers)に事実上一本化。民主党は現職連邦下院議員や現職州上院議員が出馬表明しており、8月に実施される予備選を勝ち抜いた候補者がロジャースと対決する。
2020年の上院選では民主党の現職が1.7%の差で再選、2024年の上院選では民主党新人が0.3%の差でロジャースを破り、2024年大統領選ではトランプが1.4%の差で勝利したため、共和党はミシガン州で勝利できると考えている。ただ、共和党が最後にミシガン州の連邦上院選で勝利できたのは1994年。共和党にとって、ミシガン州での上院選勝利は長年「蜃気楼」となっている。トランプ大統領の支持率が低迷したままであれば、今回も民主党が議席を守る可能性が高い。
2024年大統領選でハリスが勝利した州だが、トランプが2.8%の差まで追い上げたので、民主党の現職の引退によって共和党は獲得するチャンスがあると見ている。
共和党は人気の高い前知事クリス・スヌヌが出馬しないと表明したが、彼の弟であるジョン・スヌヌ(John Sununu)元連邦上院議員が復帰を目指して出馬。さらに、隣接するマサチューセッツ州で連邦上院議員を務め、その後ニューハンプシャー州の連邦上院選に出馬して敗北したスコット・ブラウン(Scott Brown)も出馬。民主党側では現職連邦下院議員と現職州下院議員が出馬表明している。11月の選挙は9月の予備選を勝ち抜いた候補者同士の戦いとなる。
2020年の上院選では民主党の現職が15.6%の大差で再選、2022年の上院選では民主党の現職が9.1%の差で再選し、2024年大統領選ではハリスが2.8%の差で勝利している。連勝している民主党が今回も議席を守るとの見方が強いが、共和党候補の知名度が高い点は、民主党にとって油断できない要因となっている。
2024年大統領選でハリスが小差で勝利した州で、民主党の現職が引退したので、共和党は獲得できると見ている。
民主党からは現職連邦下院議員や現職副知事、共和党からは2024年に出馬して敗北した元バスケ選手や元州上院議員が出馬しており、11月の選挙は8月の予備選を勝ち抜いた候補者同士の戦いとなる。
2020年の上院選では民主党の現職が5.2%の差で再選、2024年の上院選では民主党の現職が15.7%の大差で再選し、2024年大統領選ではハリスが4.3%の差で勝利している。民主党は連勝しており、今回も議席を守る可能性が高い。
民主党が奪える可能性が高い州の見込みは?
結論としては、2州どちらも民主党勝利の要素が強いが、メイン州では共和党現職の個人的な人気が勝利を阻止する可能性がある。
2024年大統領選でハリスが勝利した州で、共和党現職のスーザン・コリンズ(Susan Collins)が再選を目指す。民主党にとっては格好のターゲットだ。
コリンズは正式な出馬表明はしていないものの、再選を目指す意向を明言している。民主党側は、現職知事のジャネット・ミルズ(Janet Mills)が出馬表明したものの、よりリベラルな退役軍人グラハム・プラトナー(Graham Platner)も出馬表明したことで一本化できていない。対決の構図は6月の予備選の結果によって決まる。
2020年の上院選ではコリンズが8.6%の差で再選したが、2024年の上院選では民主党系無所属の現職が17.6%の大差で再選し、2024年大統領選ではハリスが7.0%の差で勝利している。州全体が民主党寄りであることから、民主党が奪う可能性が最も高い議席だと見る向きが多い。
ただ、2020年の大統領選でトランプがメイン州において9%の差でジョウ・バイデン(Joe Biden)に負ける中、コリンズは敗北の予測を覆して快勝した。今回もコリンズは強い個人票を軸に戦いを展開するほか、ミルズが民主党候補になれば彼女の高齢(78歳)が争点となるので(コリンズは73歳)、民主党の勝利は決して確実ではない。
2024年大統領選でトランプが勝利した州だが、ハリスが3.2%の差まで追い上げたので、共和党の現職の引退によって民主党は獲得できる議席と見ている。
民主党側では、最有力候補の前知事ロイ・クーパー(Roy Cooper)が出馬。共和党は複数の現職連邦下院議員が相次いで不出馬を表明したことで、有力候補が不在。予備選は3月に実施されるので、対決の構図は春に決まる。
2020年の上院選では共和党の現職が1.7%の小差で再選、2022年の上院選では共和党の新人が3.2%の差で勝利し、2024年大統領選ではトランプが3.2%の差で勝利している。共和党は連勝しているが、クーパーの個人的な人気、共和党候補の知名度不足、トランプ大統領の不人気によって、民主党は2008年以来の念願であるノースカロライナ州での上院議席獲得が大きく期待できる。
民主党が奪える可能性がある州の見込みは?
結論としては、状況が揃わない限り、4州すべてで民主党の勝利はハードルが高い。
① オハイオ州(Ohio)(補選)
JD・バンスの副大統領就任に伴い任命された共和党現職のジョン・ハステッド(Jon Husted)に対し、2024年の上院選で議席を失った前職のシャロッド・ブラウン(Sherrod Brown)が挑戦することになり、民主党に僅かながら希望が生まれた。
2022年の上院選では共和党の新人だったバンスが6.1%の小差で勝利、2024年の上院選では共和党の新人が5.6%の差でブラウンの再選を阻み、2024年大統領選ではトランプが11.2%の差で勝利している。民主党が連敗する中、ブラウンは数少ない「この州で勝てる民主党候補」だが、最近のオハイオ州は共和党の色が濃くなっていることから、民主党が勝利できる可能性は高くない。
共和党現職のジョン・コーニン(John Cornyn)が3期目を目指す中、共和党が分裂状態に陥り、民主党がその隙を突けるかが注目される。
共和党側では、州司法長官のケン・パクストン(Ken Paxton)と現職連邦下院議員のウェズリー・ハント(Wesley Hunt)が予備選でコーニンに挑戦する。民主党側では現職連邦下院議員と現職州下院議員が予備選を競っている。11月の選挙は春の予備選を勝ち抜いた候補者同士の戦いとなる。
パクストンとハントはトランプ色が強く、仮に中道派のコーニンが予備選で敗れれば、人口変動により民主党の力が強まっているテキサス州で民主党勝利のチャンスが生まれる。
共和党現職のダン・サリバン(Dan Sullivan)が再選を目指す中、民主党勝利の望みは前連邦下院議員のメアリー・ペルトラ(Mary Peltola)が出馬するかにかかっている。
アラスカ州は共和党の牙城であることから、通常であれば民主党の勝利の可能性はない。ただ、ペルトラは2022年の連邦下院補選において、元知事で2008年共和党副大統領候補だったサラ・パイリン(Sarah Palin)に快勝。その後、ペルトラは2024年の選挙で負けたが、知名度は高い。
ペルトラが出馬すれば、僅かながら民主党勝利の可能性が出てくる。ペルトラが出馬しなければ、民主党に勝ち目はない。
共和党現職のピート・リケッツ(Pete Ricketts)が再選を目指す中、無所属のダン・オズボーン(Dan Osborn)の出馬が注目される。
ネブラスカ州は共和党の牙城。2024年選挙では民主党が候補者を立てず、オズボーンが共和党現職に対してわずか6.6%差まで詰め寄った。これは、同時に行われた大統領選でハリスが20%差で敗れたことを考えると、異例の健闘である。
民主党は2026年の選挙でも候補者を擁立せず、オズボーンを推薦することにした。ただ、この州で”民主党が勝利する”ためには、オズボーンが勝つだけでなく、当選後、彼が民主党会派に入る必要がある。そもそも連邦上院選で無所属が当選することは極めて難しく、オズボーンは2024年の上院選の際にどちらの会派にも入らないことを表明していたので、ネブラスカ州での”民主党の勝利”はハードルが高い。
民主党にとって理論上は射程に入るが、現実には極めて厳しい州はどこ?
結論としては、2州どちらも民主党が勝利する可能性は極めて低い。
共和党現職が引退表明したことで競争性が高まったが、依然として共和党が有利である。
アイオワ州はかつて激戦州と見なされていたが、トランプ台頭以降は共和党寄りへと大きく傾いている。共和党側は、トランプ大統領の支持を得た現職連邦上院議員を中心に戦いを進める。民主党側は、州議会議員しか出馬しておらず、有力な候補がいない。
アイオワ州で民主党が議席を奪うのは、共和党が全国的に歴史的な敗北を喫している場合に限ると思われる。
② フロリダ州(Florida)(補選)
マルコ・ルビオ(Marco Rubio)のアメリカ国務長官就任に伴い任命された共和党現職のアシュリー・ムーディー(Ashley Moody)が初当選を目指す。
フロリダ州はかつて激戦州と見なされていたが、近年は共和党の力が増しており、民主党は連邦上院選も大統領選も連敗状態。民主党側では今のところ有力候補が名を上げておらず、実質的に不戦敗となりかねない。8月の予備選までに、現職連邦下院議員など一定の知名度がある候補者が出馬するかが注目される。
連邦下院での民主党の展望は?
結論から言うと、民主党が過半数を奪還する可能性が高い。
連邦下院選は小選挙区単位の選挙で、全議席が改選を迎える。現状は、共和党が218議席、民主党が213議席(欠員4)。今後実施される補選の結果によって変わるかもしれないが、民主党が定数435の過半数を獲得するためには5議席増やす必要がある。
大統領への信任投票となる中間選挙では、下院選で大統領の政党が敗北するのが通常だ。どれほど大統領の党が議席を減らすかは、大統領の支持率に連動する傾向にある。現在のトランプ大統領の支持率は約44%。1936年から2018年までの中間選挙では、支持率が40〜45%だった大統領の党は、13〜63議席、平均で36議席を減らしている。この水準の支持率だったバイデン政権下の民主党が2022年連邦下院選で9議席しか減らさなかったのは、(共和党に下院を奪還されたとはいえ)歴史的な健闘だったと言える。
現在の共和党は小差で過半数を維持しているため、トランプ大統領の支持率が低迷したままだと、たとえ共和党が2022年の民主党並みに健闘しても、民主党が下院で過半数を獲得する可能性が極めて高い。
ただ、不確定要素として挙げられるのが、全国的に行われている下院選挙区割りの見直しである。
トランプ大統領は、第1期の時に中間選挙の結果下院で過半数を失って政権運営が厳しくなった教訓をもとに、今回はなんとしてでも下院で過半数を維持するため、共和党が州議会と知事職を支配している州に対して、選挙区の区割りを共和党に有利になるよう見直すよう指示した。(連邦制のアメリカでは、連邦下院の選挙区の区割りは州が定める)
テキサス州で始まった選挙区割りの見直しは、ミズーリ州やノースカロライナ州に広がる一方で、インディアナ州では共和党の州上院の抵抗に合い、カリフォルニア州など民主党が支配する州が反撃する姿勢を示している。
区割りの見直しに区切りがついた時、最終的に共和党に有利な選挙区がいくつ増えるかによって、民主党の勝敗ラインが大幅に高まるかもしれない。トランプ大統領の支持率がさらに下落すれば、区割りの影響にかかわらず民主党が過半数を獲得する可能性が高い。一方、支持率が45%前後で踏みとどまれば、共和党が小差で過半数を維持する展開も残される。