2026年2月14日0時1分(現地時間)、アメリカ政府の連邦国土安全保障省(United States Department of Homeland Security)だけが政府閉鎖に入った。ここでは、トランプ政権による不法移民の取り締まりに民主党が反発した結果、同省の予算だけが成立しなかった背景を整理した上で、民主党の要求と共和党の反応、そして同省の閉鎖が日本企業にもたらす影響などを解説していく。
そもそも、なぜ連邦国土安全保障省だけが閉鎖したの?
トランプ政権による不法移民の取り締まりを巡って野党民主党が予算成立に反対したため、連邦国土安全保障省の予算が他の省庁の予算から切り離されたためである。
アメリカ連邦政府の会計年度は10月に始まる。予算は歳出法案(appropriations bills)が、立法プロセスに則って連邦上院・連邦下院を通過したのち、大統領が承認することで成立する。歳出法案は12本に分けられるので、アメリカ連邦政府の予算は省庁ごとに成立する。
2025年秋、連邦上院で予算が可決されず、アメリカ連邦政府は10月1日から閉鎖した。その後、11月12日(現地時間)につなぎ予算が成立し、2025年11月から2026年1月の間に、連邦国土安全保障省以外で2026年会計年度(2026年9月30日まで)の予算が成立した。
連邦国土安全保障省については2月13日(現地時間)までのつなぎ予算しか成立しなかった。理由は、トランプ政権によるミネソタ州での大規模な移民取り締まりに、民主党が反発したからである。共和党は両院で過半数を維持している。しかし、定数100議席の連邦上院には奇妙な審議の仕組みがあり、予算を最終採決に進めるには60票が必要。共和党は53議席しか有していないため、民主党議員の一部が賛成しない限り予算を成立させられない状況にある。
ミネソタ州での移民取り締まり強化については、移民・関税執行局(Immigration and Customs Enforcement、通称ICE)によってアメリカ市民2人が射殺される事件が発生した。ICEは連邦国土安全保障省の傘下にあるため、民主党は同省の予算の中にICEの行動を制約する条項を含めることを要求している。
2月12日(現地時間)、連邦上院は連邦国土安全保障省の会計年度予算に関する歳出法案を採決したが、52対47で60票に届かず、法案は否決された。結果、連邦国土安全保障省の予算が失効し、同省のみが閉鎖した。
民主党は連邦国土安全保障省の予算成立にあたって、どのような条件を求めているの?
民主党は歳出法案を承認する代わりに、ICE捜査官が学校・病院・保育園といった「敏感な場所」で取り締まることやマスクを着用することを禁止することを求めている。また、ICE捜査官がボディカメラを常に装着することも要求している。
もっとも、民主党が最も重視しているのは、ICE捜査官による住宅への侵入についてである。
アメリカ連邦憲法修正第4条は「不合理な捜索・差押えを禁じる」と規定していることから、ICE捜査官が住宅に踏み込むためには、裁判官が発行した令状が必要であると従来は考えられていた。だが、連邦国土安全保障省は2025年5月、強制送還の命令の対象となっている人物を逮捕するためなのであれば、ICE捜査官は行政が発行する令状に基づいて住宅に侵入できるというメモを内部的に発行した。
行政が内部に向けて発する令状には独立性が担保されておらず、行政令状は裁判所の令状より審査基準が遥かに緩い。民主党は、住宅への侵入には裁判所の令状が必要となることを要求している。
共和党とトランプ大統領は民主党の要求に対してどう反応しているの?
2025年10月1日から43日間続いた政府閉鎖の時と異なり、共和党は民主党に対して一定の譲歩をする姿勢を示している。たとえば、ICE捜査官がボディカメラを装着することには賛成を示している。
ただ、それ以外の要求については、民主党が特に重視している住宅への侵入に司法令状を義務付けることを含め、不法移民の取り締まりに影響を及ぼすとして反対している。トランプ大統領は明確な立場を示していないため、トランプ大統領より共和党の連邦議員の方が強硬な姿勢を取っていると言える。
なお、トランプ政権は2月12日(現地時間)、ミネアポリス市に動員されたICE捜査官を引き上げると発表した。これによって民主党の反発を引き起こした移民取り締まりは終了するが、民主党はミネアポリス以外でも同じことが起こり得るとして、要求を変えていない。
連邦国土安全保障省の閉鎖はどれほど続きそうなの?
連邦上院は2月12日の採決後に休会に入り23日まで開催されない予定であるため、連邦国土安全保障省の閉鎖は10日間続く可能性がある。
ただ、連邦上院の共和党の執行部は、それ以前に民主党と合意に至れば、上院の開催を前倒しするとしている。
連邦国土安全保障省の閉鎖にはどのような影響があるの?
実質的な影響は限定的である。とりわけ、争点となっている移民の取り締まりには影響を及ぼさない。
理由は、2025年に成立した歳出法により、ICEの活動費はトランプの第2期目を通した複数年度にわたり措置されているためである。民主党は不法移民の取り締まりに反発して連邦国土安全保障省の予算に反対しているが、予算が成立しなくてもICEの活動には影響を及ぼさないという矛盾がある。
また、連邦国土安全保障省の傘下にある他の庁や局についても、大半が「生命・財産の保護」のために必要なエッセンシャル(essential)職員と指定されるため、閉鎖中も給与なしに勤務を継続することが求められる。エッセンシャル職員には、空港のセキュリティ検査にあたる職員も含まれる。
なお、空港の管制官は連邦航空局(Federal Aviation Administration)に所属しており、同局の会計年度予算は既に成立していることから、管制官は連邦国土安全保障省の閉鎖の影響は受けない。
連邦国土安全保障省の閉鎖が日本企業に与える影響は?
連邦国土安全保障省の閉鎖は実質的な影響が想定されていないとはいえ、長引くと航空便の混乱を起こし、日本からの出張や駐在員の移動を不便なものにする可能性がある。
その背景には、空港のセキュリティ検査官はエッセンシャル職員であるものの、無給与で勤務することには限界があり、欠勤が増えるという事情がある。検査官の欠勤が増えると、空港のセキュリティ検査に遅れが生じたり、便の欠航が多発する。