高齢政治家が多いアメリカ〜その制度的背景と求められる健康情報の透明性〜

高齢政治家が多いアメリカ〜その制度的背景と求められる健康情報の透明性〜

アメリカの政界では現在、ミッチ・マコネル(Mitch McConnell)連邦上院議員の健康状態をめぐり、議論が起きている。連邦上院の共和党トップを18年間務めたマコネルは約1か月前に入院したものの、健康状態に関する具体的な情報が公表されていない。2024年の大統領選で当時のジョウ・バイデン大統領が健康への懸念で撤退に追い込まれたのは記憶に新しく、現在、連邦議会では20人を超える議員が80歳以上である。本稿では、アメリカでは連邦議員が長く公職にとどまり続けられる制度的な理由を整理したうえで、制度改革が難しい背景と、本質的な課題が健康情報の透明性にある理由を解説し、日本にとってどのような意味を持つのかを考える。

アメリカには高齢の政治家がどれほどいるのか

現在、連邦上院では99人中7人(約8%)、連邦下院では431人中16人(約4%)が80歳以上である。

最高齢は92歳のチャック・グラスリー(Chuck Grassley)連邦上院議員。他にも、共和党の上院院内総務を務めたマコネルや2016年と2020年の民主党大統領候補指名争いに出馬したバーニー・サンダース(Bernie Sanders)が80歳を超えた現在も連邦上院議員を務めている。連邦下院での最高齢は88歳のハロルド・ロジャース(Harold Rogers)で、元下院議長のナンシー・ペロシ(Nancy Pelosi)は86歳である。

80歳以上の連邦議員の過半数が次の選挙で再選を目指している

なぜ世代交代が進まないのか

日本では、国政選挙の候補者にとって政党の公認が重要であり、党が現職議員を公認しないことで高齢議員の引退を強いることができる。

だが、アメリカでは、民主党と共和党の候補者は原則として有権者が投票する予備選挙で決まる。党幹部が世代交代を望んでも、現職が予備選挙で勝利すればそのまま党の候補者になるため、党だけの判断で現職を交代させることは難しい。

特に何十年も議員を務めている現職は知名度が高く、資金集めでも有利で、地元にも強い支持基盤を持っていることが多い。挑戦者が現れても予備選挙で現職を破ることは容易ではなく、特別な事情がない限り、有権者が予備選挙で現職を落とすことは少ない。

さらに、多くの連邦下院選挙区や(連邦上院の選挙区単位である)州は、一方の政党が圧倒的に強い「安全選挙区」や「安全州」である。このような選挙区や州では、本選挙よりも予備選挙の方が実質的な勝負となるため、予備選挙で勝利することが事実上の再選を意味する。

アメリカで高齢の政治家が多い背景には、本人が引退を望まないという事情に加えて、こうした選挙制度の仕組みが大きく関係している。

この制度はどのような問題を生んでいるのか

近年、高齢の政治家をめぐる健康状態や職務遂行能力が政治問題となるケースが相次いでいる。

制度改革はなぜ難しいのか

連邦制のアメリカでは、連邦議員の選挙は州が実施しており、予備選挙の方式や投票方法なども州ごとに異なる。しかし、州が独自に決められるのは選挙の実施方法であって、連邦議会議員になるための資格ではない。

実際、任期制限を設けようとした州もあった。アルカンソー州(Arkansas)では1992年に、連邦議会議員と州議会議員の任期に上限を設ける案が住民投票で可決され、任期制限が州憲法に規定された。しかし、1995年に連邦最高裁判所は、アメリカ連邦憲法に定められている連邦議員の資格以外を州が規定することはできないと判断し、アルカンソー州憲法の規定を無効にした。この判決によって、連邦議員の年齢制限や任期制限を設けるには憲法改正が必要となったが、連邦憲法を改正するハードルは極めて高く、連邦議会と各州の双方で幅広い支持が必要となる。

また、現職が有利になりやすい現状を変えるため、ジャングル・プライマリー(jungle primary)や優先順位付投票制(Ranked Choice Voting)など、予備選の制度そのものを見直す動きが一部の州で広がっている。だが、予備選挙制度を変更しても世代交代が進むとは限らず、高齢政治家の健康問題に対する直接的な解決にはならない。

なぜ本質的な問題は年齢よりも情報公開なのか

最近のアメリカでは政治家の高齢が問題視されることが多いが、本質的な論点は年齢そのものではない。例えば、グラスリー上院議員は92歳、ペロシ元下院議長は86歳であるものの、両者の活動状況や職務遂行能力が疑問視されているわけではない。

一方で、トム・キーン2世(Tom Kean Jr.)連邦下院議員は50代でありながら、2026年3月から4か月近く議会を欠席し、6月に復帰するまで、うつ病のため入院して治療を受けていたことを公表しなかった。また、当時60代で、バイデン政権の下で国防長官(United States Secretary of Defense)を務めていたロイド・オースティン(Lloyd Austin)は、2024年1月に前立腺がんの手術後の合併症で再入院したものの、その事実は数日間にわたりホワイトハウスや国防総省の幹部にも共有されなかった。

健康状態は、本来、個人のプライバシーに属する情報である。現職の連邦議員がその情報をどこまで公表すべきかについて定めた連邦法や院内規則はない。アメリカでは、日本と比べて党執行部が現職議員を候補者から外すことが難しく、予備選挙と本選挙を通じて有権者が候補者を選ぶ。有権者が選挙で適切に判断するためには、候補者や公職者の職務遂行に影響する健康情報が適切な時期に公開されることが重要だという声が高まっている。

実際、健康情報が積極的に公開された例もある。2023年、脳卒中から回復中だったジョン・フェッターマン(John Fetterman)連邦上院議員は、うつ病の治療を受けるため入院したことを自ら公表し、その後も治療経過や復帰時期について継続的に情報を更新した。

マコネル連邦上院議員が長期不在の理由や健康状態を十分に説明していないことを受け、議員にどこまで健康情報の公開を求めるべきかが、改めて大きな論点となっている。

なぜアメリカの政治家の健康状態は日本にとっても無関係ではないのか

日本にとって、同盟国であるアメリカの政権が正常に機能し、その状況を適切に把握できることは極めて重要である。日本政府は、大統領が職務を遂行できる状態にあることを前提として、外交・安全保障政策を策定している。バイデン大統領の認知能力をめぐる懸念が実際に表面化した時期よりも早く日本側で把握されていれば、当時の対米外交に何らかの影響を及ぼした可能性は否定できない。

また、日本では連邦議会の重要性が見落とされがちである。アメリカでは外交、安全保障、通商など日本に関係する政策において連邦議会が大きな役割を果たしており、外交、軍事、歳出を担当する委員会の委員長は法案審議などで強い影響力を持つ。こうした委員長には、長年にわたり在職してきた議員が就任することが多く、高齢であることも少なくない。また、議会の多数派が僅差である場合、議員1人の長期不在が委員会の活動そのものに影響を及ぼすこともある。実際、ファインスタインの長期欠席により、バイデン大統領が指名した連邦裁判官の承認手続きが停滞した。

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