共和党上院議員の間で広がるトランプとの対立〜「逆らえない時代」は終わるのか〜

共和党上院議員の間で広がるトランプとの対立〜「逆らえない時代」は終わるのか〜

2026年6月、連邦上院の共和党議員の一部がトランプ政権に対して公然と対立する事例が相次いだ。その動きは法案や人事など多岐にわたる分野で見られており、引退を決めた議員、すでに予備選で敗北した議員、そして11月の中間選挙で厳しい選挙を控える議員を中心に起こっている。この傾向が続けば、2016年以来の「共和党議員はトランプに逆らえない」というアメリカ政治の前提が変化することになる。ここでは、なぜ今になって共和党上院議員がトランプに異議を唱え始めているのかを整理した上で、この動きが今後どこまで広がるのかを考える。

どの共和党連邦上院議員がトランプと対立しているのか

ドナルド・トランプは2016年に共和党の大統領候補となって以来、共和党支持者の間で圧倒的な人気を維持してきた。そのため、共和党議員にとってトランプに公然と反対することは、単に大統領と意見が対立することではなく、自らの政治生命を危険にさらす行為でもあった。実際、トランプは足並みを揃えない共和党議員に対して予備選で対立候補を支援し、SNSや保守系メディアを通じて批判を展開することで、党内の反対派に強い圧力をかけてきた。

その結果、大半の共和党議員は、トランプの政策や発言に疑問を持っていたとしても、トランプに逆らうことの政治的コストが高すぎたため、沈黙していた。ところが、最近になって、一部の共和党連邦上院議員の間でその計算が変化し始めている。

その中心となっているのが、もはやトランプの支持を失うことを恐れる必要がない立場にある議員である。第一に、ケンタッキー州のミッチ・マコネル(Mitch McConnell)やノースカロライナ州のトム・ティリス(Thom Tillis)といった、今年の中間選挙で再選を目指していない「引退組」がいる。第二に、ルイジアナ州のビル・キャシディ(Bill Cassidy)とテキサス州のジョン・コーニン(John Cornyn)といった、5月に実施された予備選でトランプが支持した対立候補に敗北し再選できないことが確実となっている「予備選敗北組」がいる。

さらに、トランプに忠実であり続けることが政治的なリスクになり始めている議員がいる。メイン州のスーザン・コリンズ(Susan Collins)、オハイオ州のジョン・ヒューステッド(Jon Husted)、アラスカ州のダン・サリバン(Dan Sullivan)は、今年11月に行われる中間選挙で民主党候補を相手に厳しい選挙を強いられており、これら「接戦組」の3人は、支持率が低迷しているトランプ大統領から一定の距離を置く必要が出てきている。

2026年6月の連邦上院では、この「引退組」、「予備選敗北組」、「接戦組」の7人が、民主党議員と同じ側に回る場面が目立った。

「反武器化基金」をめぐって、誰がトランプと対立したのか

トランプ政権は5月、約18億ドル(約2900億円)の「反武器化基金(Anti-Weaponization Fund)」の計画を発表した。「反武器化基金」とは、ジョウ・バイデン大統領時代に政治的迫害を受けたと主張する人々に対して補償を行うことを目的とした基金で、トランプ政権は、政治的動機によって捜査・起訴されたと主張する人々が補償対象になり得るとの考えを示していた。

この基金は、発表直後から民主党だけでなく共和党からも懸念が噴出した。問題視されたのは、2021年1月6日にトランプ大統領の2020年大統領選敗北を否定して連邦議会を襲撃したことで有罪判決を受けた受刑者が補償の対象に含まれることであった。

共和党内の反発を受け、トランプ政権は6月1日(現地時間)、この基金の創設計画を撤回する方針を表明した。だが、政権側の表明だけでは不十分だと考えた民主党は、反武器化基金の創設を恒久的に禁止する案を連邦上院に提出した。6月4日(現地時間)、この案は賛成49対反対50で否決されたが、共和党から接戦組のコリンズ、サリバン、ヒューステッド3人が賛成に回り、予備選敗北組のキャシディもこれに同調する動きを見せていた

SAVE法をめぐって、誰がトランプ政権と対立したのか

アメリカ有権者資格保護法(Safeguard American Voter Eligibility Act)、通称「SAVE法(SAVE Act)」は、 連邦選挙の有権者登録に際して、アメリカ市民権を証明する書類の提出を義務付ける法案である。トランプはこれを共和党が11月の中間選挙で勝利するために不可欠な法案と位置付け、最優先課題として連邦議会に対して成立を求めてきた。

だが、法案成立に必要な票数を確保できないことは以前から明らかであり、実際、連邦上院は6月4日(現地時間)にSAVE法の成立に必要な手続きについて採決し、賛成48対反対50で否決した。民主党議員全員に加えて共和党からも4人が反対に回り、その中には引退組のマコネルとティリス、そして接戦組のコリンズが含まれていた。予備選敗北組のコーニンは共同提案者としてこの法案を支持しているものの、上院で可決できる見通しはないとして、トランプ大統領の同法案成立に固執する姿勢を公然と批判している

国家情報長官の人事をめぐって、誰がトランプと対立したのか

5月22日(現地時間)、トゥルシー・ギャバード(Tulsi Gabbard)が国家情報長官(Director of National Intelligence)の職を辞任したため、トランプ大統領は6月2日(現地時間)、連邦住宅金融庁(FHFA)長官であるビル・プルテ(Bill Pulte)を代行に起用した。プルテは連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board)の理事であるリサ・クック(Lisa Cook)について、住宅ローン関係の書類で虚偽記載したことによって優遇金利で住宅ローンを取得した疑いがあると指摘し、この問題提起がトランプ大統領によるクック理事の解任につながったことで、プルテは保守派の間で注目を集める存在になった。

国家安全保障や情報機関の実務経験がないプルテの起用については、引退組のティリス、予備選敗北組のコーニンとキャシディ、そして接戦組のコリンズを含む多くの共和党議員が懸念の声を上げていた。その結果、トランプ大統領は6月4日(現地時間)、プルテを代行から正式な国家情報長官に格上げしないと表明した。

これに満足しなかった民主党は、プルテが連邦住宅金融庁長官の地位にとどまったまま国家情報長官代行を務めることを禁じる法案を連邦上院に提出した。法案は6月4日(現地時間)に賛成49対反対49で否決されたが、予備選敗北組のキャシディと接戦組のコリンズを含む3人が共和党から賛成に回っていた

イラン戦争をめぐって、誰がトランプと対立したのか

6月23日(現地時間)、連邦上院はトランプ大統領に対して、イランへの軍事行動を停止するか、軍事行動を続ける場合は連邦議会の承認を求める戦争権限法(War Powers Resolution)を賛成50対反対48で可決した。共和党から4人が賛成に回り、その中には予備選敗北組のキャシディと接戦組のコリンズが含まれていた

もっとも、その後、キャシディとトランプ大統領は戦争権限法が可決されたことについて激しい口論になり、その結果、キャシディは賛成から反対に転じて戦争権限決議は否決された

共和党議員とトランプの対立は今後広がるのか

今後この動きがどこまで広がるのかを考える上で重要なのは、トランプに異議を唱えている議員たちは一つの政治勢力として行動しているわけではないという点である。

11月に厳しい選挙を控える議員は、中間選挙で勝利するために有権者の反応を意識して行動せざるを得ない。その結果、「接戦組」の議員は、トランプ支持者だけでなく、無党派層や穏健派有権者も意識し、より中道的な立場を取るインセンティブが生じる。

一方、引退を決めた議員やすでに予備選で敗北した議員は、もはや次の選挙を考える必要がないため、自らの理念や信念に基づいて行動することができる。もっとも、引退組や予備選敗北組の議員の多くは、もともと共和党内でも保守色の強い議員である。そのため、引退組や予備選敗北組が接戦組と足並みをそろえる場面は、政策・思想を踏まえると、それほど多くはならないだろう。

だが、対立の動きが広がる余地がないわけではない。

現在、再選を目指さないことを表明している共和党上院議員はマコネルとティリスの他に5人いる。その大半は思想的にトランプに近いためトランプ政権と対立するとは考えにくいが、アイオワ州のジョニ・アーンスト(Joni Ernst)は比較的中道寄りであるため、トランプ政権に対立する引退組の影響力はより大きくなるかもしれない。

また、アラスカ州のもう1人の連邦上院議員であるリサ・マーカウスキー(Lisa Murkowski)の存在も無視できない。

マーカウスキーは11月に選挙を控えているわけではないが、中道的な共和党議員として、SAVE法、プルテ、そしてイラン戦争をめぐってトランプ政権に異議を唱える側に回っている。接戦組のうちヒューステッドとサリバンは保守的だが、中間選挙が近づくにつれ、選挙の論理によって、より中道的な立場を取らざるを得なくなってくるかもしれない。そこで、もともと中道派であるコリンズを中心に接戦組の間で連携が強まり、マーカウスキーとも連携する機会が高まる可能性がある。

ただ、たとえ「中道派+接戦組」の連携が生まれ、引退組のメンバーが拡大しても、連邦上院における民主党の影響力が高まるわけではないことに注意が必要だ。連邦上院では、法案を成立させるために原則として60票が必要である。現在の連邦上院の構成は共和党53議席、民主党47議席(民主党系無所属を含む)なので、民主党が連邦上院の運営を主導するためには共和党から13人の造反が必要であり、そこまでトランプに対立する動きが広がるとは考えられない。

日本への影響は

今回の一連の対立は、直ちに共和党の反トランプ化を意味するわけではない。しかし、民主党に連邦上院での主導権を与えることなく、トランプ政権に「ここまでは付き合えない」と意思表示できる政治空間が共和党内で広がり始めていることは、日本政府や日本企業にとっても重要である。

これまで第2期トランプ政権の動向を予測する上では、ホワイトハウスの意向を理解することで十分だった。しかし今後は、特定の法案や人事についてブレーキをかける共和党上院議員の存在が高まり、連邦上院が今以上にトランプ大統領の意向通りに動かなくなる場面が増える可能性が高まっている。

0
0

コメントを残す