2026年5月、11月の中間選挙に先立って行われた4つの予備選において現職が相次いで負け、共和党内ではドナルド・トランプ大統領がいまだに圧倒的な影響力を持っていることが示された。ここでは、なぜアメリカ全土では不人気なトランプ大統領が共和党予備選では影響力を維持できているのかを解説し、各州の選挙結果を分析した上で、11月の中間選挙と日本企業への影響を説明する。
なぜ全国的な人気と共和党内での人気は一致しないのか
トランプ大統領は全国レベルでは世論調査で支持率が低迷しているが、共和党支持者の間では今なお極めて強い支持を維持している。トランプの共和党内での政治的影響力を理解する上で重要なのは、「アメリカ国民全体」と「共和党予備選の有権者」は別の集団であるという点である。
その主な理由は、アメリカでは本選挙と予備選が別々に行われるためである。アメリカの選挙の仕組みは州ごとに異なるが、大半の州では、まず民主党と共和党がそれぞれ予備選を実施し、本選挙に進む党の候補者を決める。そしてその後、本選挙で民主党候補と共和党候補が対決する。言い方を変えると、共和党政治家は2つの異なる選挙を勝ち抜かなければならず、まずは主に共和党支持者が投票する共和党予備選で勝利し、その後に民主党支持者や無党派層も参加する本選挙で勝利する必要がある。
現在の共和党では、党の中核的な支持層とトランプ支持層がほぼ重なっている。かつての共和党には、企業寄りの伝統的保守派、財政保守派、外交重視派、宗教保守派など複数の勢力が存在し、それぞれが党内で影響力を競っていた面があった。だが、2016年の大統領選挙以降、トランプは共和党を自らの支持者を中心とする政党へと再編していった。
その結果、現在の共和党予備選では、「候補者がどれだけ保守的な政策を掲げているか」ではなく、「候補者がどれだけトランプと歩調を合わせているか」を有権者が重視する傾向にある。実際、2026年5月に行われたインディアナ州、ルイジアナ州、ケンタッキー州、テキサス州の予備選では、それぞれ事情は異なるものの、保守派として長年活動してきた現職議員であっても、トランプと距離があると予備選を突破できない状況が生じた。
インディアナ州では、トランプに反旗を翻した州上院議員たちがどのように敗れたのか
インディアナ州では2026年5月5日(現地時間)、トランプが推進した選挙区再編に反対した共和党所属の州上院議員らが、トランプが支持した挑戦者との戦いで相次いで敗北した。
発端となったのは2025年夏に始まった連邦下院選挙区割りをめぐる対立である。連邦制のアメリカでは、国会議員である連邦下院議員の選挙区を州が定める。その仕組みを踏まえ、当時のトランプ大統領は、共和党が州政府を支配する州に対し、共和党に有利となるよう連邦下院選挙区を再編することを求めた。
インディアナ州でも共和党に有利な区割り変更法案が州議会に提出されたが、2025年12月、州上院は、共和党が過半数を占めているにもかかわらず、法案を31対19で否決した。反対票には21人の共和党議員が含まれており、今回の予備選ではこの21人のうち8人が挑戦者と戦うことになった。
トランプ大統領は挑戦者8人のうち7人を正式に推薦した。それら挑戦者を支援するため、トランプを支持する団体が1000万ドル(16億円)もの選挙資金を投入したことにより、通常であれば地元中心の州議会選挙が全国レベルの政治闘争へと変貌した。
予備選の結果は、区割り変更法案に反対した現職に対して極めて厳しいものとなった。トランプが正式に支持した挑戦者7人のうち5人が現職を破り、その勝利幅は17〜51ポイント差という大差だった。また、トランプの推薦を得られなかった挑戦者も現職を11ポイント差で破った。これはトランプの推薦有無にかかわらず、共和党有権者自身が「トランプに反対した政治家は落選させるべき」という考えを共有していたことを示唆している。
反対に、挑戦者に対して勝利できた現職は1人のみであった。もう1人の現職がわずか2票差でリードしており、いまだに再集計が続いている。
敗れた現職議員の大半は、長年にわたり共和党内で活動してきた保守派であった。争点となったのは政策や思想の問題ではなく、トランプが重視した区割り変更に反対したという事実のみだったので、インディアナ州での州上院共和党予備選の結果は、現在の共和党において最も重要なのがトランプと歩調を合わせているかどうかであることを象徴するものとなった。
ルイジアナ州では、なぜキャシディ連邦上院議員が敗北したのか
ルイジアナ州では5月16日(現地時間)、2021年の弾劾裁判でトランプに有罪票を投じたビル・キャシディ(Bill Cassidy)連邦上院議員が予備選で敗北した。
2021年の弾劾裁判は、2020年の大統領選で敗北したトランプ大統領が、支持者による連邦議会議事堂への襲撃を扇動したというものである。連邦下院が訴追し、連邦上院で裁判が実施された結果、トランプは無罪となったが、キャシディは有罪票を投じた共和党議員7人のうちの1人だった。
その後、トランプは繰り返しキャシディを攻撃し続け、今回の選挙は事実上、5年前の弾劾投票をめぐる政治的清算の意味合いを持っていた。また、もともと医者であったキャシディは、トランプが連邦保健福祉長官(United States Secretary of Health and Human Services)に指名したロバート・F・ケネディ2世(Robert F. Kennedy Jr.)を承認することについて、懐疑的な姿勢を一時示していた。
こうした中、ルイジアナ州の選挙制度がキャシディに不利になる形で変えられた。従来、ルイジアナ州では「ジャングル・プライマリー(jungle primary)」と呼ばれる制度が採用されており、この制度では、民主党・共和党を含む全候補が同じ予備選に出馬し、得票率50%を超える候補者がいなければ、上位2人が決選投票に進む。ところが2024年、ルイジアナ州は、共和党のジェフ・ランドリー(Jeff Landry)知事の主導の下、連邦議員の選挙について各党が独自に予備選を実施し、第1回投票で過半数を獲得する候補がいない場合に決選投票を行う制度に移行した。結果、キャシディは無党派層や民主党支持者に支えられる余地を失い、共和党支持者から支持を得ないと本選に進めなくなった。
予備選の結果は、キャシディにとって壊滅的なものとなった。得票率45%で1位になったのはトランプ大統領の支持を得たジュリア・レットロー(Julia Letlow)連邦下院議員で、ジョン・フレミング(John Fleming)州財務長官(state treasurer)が得票率28%で2位に入った。現職のキャシディは得票率25%で3位にとどまり、決選投票にすら進めなかったのである。
キャシディは長年ルイジアナ州で勝利を重ねてきた保守派共和党議員であったが、トランプとの対立が政治生命を左右する結果となった。キャシディが決選投票にすら進めなかったという結果は、現在の共和党においてトランプへの忠誠がどれほど重要な政治的条件になっているかを示す極めて象徴的な事例である。
ケンタッキー州では、なぜ人気の現職連邦下院議員マッシーでも生き残れなかったのか
ケンタッキー州では5月19日(現地時間)、トランプとたびたび対立してきたトーマス・マッシー(Thomas Massie)連邦下院議員が、トランプが支持した候補者エド・ガルレイン(Ed Gallrein)に敗れた。
マッシーは2012年から連邦下院議員を務めてきた保守派共和党議員であり、財政保守や小さな政府を重視するリバタリアン(libertarian)系の政治家として知られていた。しかし同時に、マッシーは共和党内でも数少ない「トランプに従わない保守派」であり、政府支出拡大やベネズエラへの侵攻、そしてイラン戦争をめぐってトランプと衝突してきた。さらに、民主党の議員と組んでいわゆる「エプスタイン・ファイル」の公開を求める法案を提出するなど、トランプとの対立を深めた。
マッシーは地元で人気が高く、2012年の初当選以来、予備選では無投票当選か圧勝が続いていた。しかし、今回の予備選ではガルレインが選挙を事実上「マッシーはトランプに忠実か」という一点に集中させたことで、選挙はトランプへの忠誠心を問うテストへと変化した。この選挙に3000万ドル(約50億円)以上の選挙資金が投じられたことが、この選挙へのトランプ大統領の関心と全国的な注目を示している。
予備選の結果、ガルレインは得票率55%対45%でマッシーを破った。インディアナ州の州上院議員やルイジアナ州でのキャシディ連邦上院議員よりは健闘したが、10ポイント差は明確な敗北で、地元で高い人気を誇っていても、トランプと対立したままでは生き残れないことが示された。
テキサス州では、なぜコーニン連邦上院議員が惨敗したのか
テキサス州では5月26日(現地時間)、ベテランのジョン・コーニン(John Cornyn)連邦上院議員が、トランプの支持を受けたケン・パクストン(Ken Paxton)元州司法長官(State Attorney General)に惨敗した。
コーニンは共和党内で最も著名な上院議員の1人であり、2002年に初当選して以来4回の当選を重ね、共和党連邦上院院内幹事(United States Senate Majority Whip)も務めた。コーニンは決して反トランプ派ではなく、トランプ政権の減税、保守派判事の承認、移民政策などを概ね支持していた。
コーニンに挑戦したパクストンは州内では高い知名度を持つ一方で、スキャンダルの多い政治家として知られている。2015年に証券詐欺容疑で起訴されたほか、2020年には贈収賄の疑いでアメリカ連邦捜査局(Federal Bureau of Investigation、FBI)に捜査され、2023年には共和党が多数を占めるテキサス州下院によって弾劾された。通常であれば、こうした経歴を持つ候補は連邦上院選の候補として敬遠されるが、パクストンはトランプが2期目への出馬を表明した際にいち早く支持を表明したことから、トランプの最も忠実な同盟者として出馬した。
テキサス州の選挙の仕組み上、連邦上院予備選における1回目の投票でどの候補者も過半数を獲得できないと、上位2位が決選投票に進む。2026年3月3日(現地時間)に開票された第1回投票では、コーニンが42%、パクストンが41%、ウェズリー・ハント(Wesley Hunt)連邦下院議員が14%を獲得し、世論調査の多くではパクストン優勢が伝えられていたため、むしろコーニンが予想以上に健闘したという見方もあった。
しかし、決選投票ではパクストンが64%対36%でコーニンを圧倒した。第1回投票ではほぼ互角だったのが、決選投票では地滑り的な勝利へと変わったのである。決選投票に追い込まれたコーニンが敗北することは十分想定された結果だったが、現職でありながら28ポイント差の大敗を喫したことは注目された。
選挙結果の決め手となったのは、トランプが選挙の1週間前にパクストン支持を表明し、終盤にパクストンへの支持が一気に集まったことである。コーニンは、インディアナ州の州上院議員、ルイジアナ州のキャシディ連邦上院議員、ケンタッキー州のマッシー連邦下院議員と異なり、反トランプ派としての活動が特段目立っていたわけではない。それにもかかわらず、共和党予備選の有権者は、20年以上にわたって上院議員を務めてきたコーニンを、トランプの支持を得られなかったという理由で大差で退けた。
これらの結果は2026年中間選挙をどう占うのか
これら4つの選挙結果は共和党予備選であり、主に共和党支持者が投票した選挙であるため、11月の中間選挙への影響は限定的である。
実際、ルイジアナ州もケンタッキー州も共和党の牙城であるため、予備選の結果は「共和党が11月に勝つのか負けるのか」という問いへの回答を大きく左右するものではない。また、インディアナ州の予備選は州議会の選挙であるため11月に注目される可能性は低く、そもそも同州は共和党の牙城であることから、本選挙で州議会の構成が大きく変わることは想定されない。
ただ、テキサス州だけは性質が異なる。
テキサス州は依然として共和党が優勢な州ではあるものの、近年は民主党が支持を伸ばしている。11月の連邦上院選で民主党が過半数を奪還するためには、共和党が保持している議席を4つ奪う必要があり、その1つの候補としてテキサス州が挙げられている。
今回のテキサス州での予備選の結果は、民主党が同州の上院選で勝利する可能性を高めたと考えられる。コーニンは長年にわたり州全体の選挙で勝利してきた現職上院議員であり、共和党支持層だけでなく中道層からも支持を得ていた。一方、パクストンは共和党支持者からの人気は高いものの、長年にわたる刑事事件や倫理問題を抱えており、無党派層や郊外有権者からの評価は高くない。
もちろん、だからといって民主党勝利が確実になったわけではない。民主党が最後にテキサス州の上院選で勝利できたのは30年前であり、同州は依然として共和党寄りの州である。民主党の予備選では最有力候補のジェームズ・タラリコ(James Talarico)が勝利している。決して楽な戦いにはならないが、タラリコがパクストンを「より倒しやすい共和党候補」と見ていることは間違いないだろう。
これらの結果は日本企業にとって何を意味するのか
インディアナ州上院、ルイジアナ州連邦上院、ケンタッキー州連邦下院、テキサス州連邦上院の各予備選挙の結果が、直ちに日本企業の事業環境を変えるわけではない。しかし、これらの結果は、アメリカの政治を理解するにあたって、現在の共和党では思想や政策よりもトランプとの関係が優先される現実を認識する必要性を示している。
従来の共和党であれば、減税、規制緩和、自由貿易、企業活動の重視といった比較的分かりやすい政策軸が存在した。しかし現在の共和党では、保守的な政策であっても、トランプの政治的利益や支持者向けのメッセージと合わなければ政治的に生き残れない可能性が高い。よって、関税や政府による企業への政治的圧力のように、伝統的な共和党の小さな政府路線とは必ずしも一致しない政策でも、トランプ運動の中心的テーマであれば優先されかねない。
特に注意すべきなのは、通商政策と産業政策である。日本企業はアメリカ市場で製造、販売、投資、雇用を行っているため、関税や原産地規則の影響を直接受ける。トランプ色が強まっている現在の共和党内では、「アメリカ第一(America First)」の政治的メッセージに合うかどうかが政策判断の中心になりやすくなっているため、日本企業としては、共和党を単純に「ビジネスに有利な政党」とは見られないことが改めて確認された。
さらに、テキサス州連邦上院選は中間選挙の行方の面で大きな影響を及ぼす可能性がある。
もともとは民主党が11月の中間選挙で連邦上院において過半数を獲得できる可能性は低いと見られていたが、パクストンが共和党の候補になりテキサス州における民主党の勝利の可能性が高まったことで、民主党の過半数獲得が視野に入ってきた。連邦下院では共和党が過半数を失う可能性が既に高いと見られている。連邦上院でも民主党が議席を積み増す可能性が出てきたことで、トランプ政権は中間選挙をきっかけに一気に弱体化する可能性がある。よって日本企業としては、中間選挙後の政局変化も視野に入れながら、ポスト・トランプを見据えたシナリオについても検討を始める必要があるだろう。