「相互関税」を無効にした最高裁の判決〜トランプ関税はどこまで制約されるのか〜

「相互関税」を無効にした最高裁の判決〜トランプ関税はどこまで制約されるのか〜

2026年2月20日(現地時間)、連邦最高裁判所はドナルド・トランプ大統領が課した「相互関税」について違法であるとの判断を下した。ここでは、最高裁判決の内容と射程、分裂した判決構図の意味、トランプ大統領による新措置とその行方、そして日本政府や日本企業への影響などについて解説していく。

何が違法と判断されたの?

連邦最高裁が違法であると判断したのは、トランプ大統領が国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act of 1977、通称「IEEPA」)に基づいて発動した関税措置である。

トランプ大統領は2期目就任後、「膨大な貿易赤字がもたらす国家的緊急事態」を宣言し、すべての貿易相手国に対して10%以上の「相互関税」を課した。これに対して複数の州および企業が提訴し、連邦国際貿易裁判所(Court of International Trade、通称CIT)は、IEEPAは関税賦課を認めていないとして違法判断を下した。連邦巡回控訴裁判所(Federal Circuit Court)もこれを維持し、連邦最高裁はこれら下級審の判断を支持した。

最高裁の判決の核心は極めてわかりやすく、主な点は次の2点である。

  • アメリカ連邦憲法上、関税を含む課税権限は原則として連邦議会に帰属しており、大統領が関税を課すためには法律上の根拠が必要
  • 大統領がトランプ関税ほど大規模かつ経済的影響の大きい措置を取るためには連邦議会による明確な授権が必要で、IEEPAが大統領に与えている「輸入を規制する」権限では不十分

最高裁の判決を読み解くと、何が見えてくるの?

判決には6人の連邦最高裁裁判官が賛成し、3人が反対したので、一見すると、最高裁は決定的な判断を下したように見える。だが、9人の裁判官のうち5人が賛成意見を書いたことを鑑みると、6人は決して一丸ではなかったことが見えてくる。

判決に賛成した6人の裁判官は全員、IEEPAは大統領に関税を課す権限を与えていないと判断した。だが、IEEPAの解釈のみで「相互関税」を違法とできるかという点で判断が分かれた。

民主党の大統領に任命されたいわゆるリベラルな裁判官3人は、法律の文言を解釈するだけで十分だとした。

だが、この3人のみでは過半数に達さず、判決には共和党の大統領に任命されたいわゆる保守的な裁判官3人の意見が欠かせなかった。この3人は「重大な問題の法理(major questions doctrine)」を適用し、「相互関税」のような政治的および経済的に重大な影響を伴う決定には、連邦議会によって明示的に権限が与えられている必要があるとした上で、IEEPAにはその根拠がないと判断した。

近年の最高裁は、外交・安全保障分野で大統領権限を比較的広く認める傾向にあり、トランプ大統領による拡大的な権力の行使も概ね認めてきた。一方で、行政機関や大統領が曖昧な法律を根拠に広範な規制を行うことについては否定的な姿勢を示してきていた。

今回の判決は、緊急事態宣言や外交が関係しても、最高裁は行政法の観点で大統領の権限を抑制することを優先したことを意味する。

判決によって、トランプ関税は撤廃されるの?

判決はあくまでIEEPAに基づいた関税のみについて違法としており、それ以外の法律に基づいた関税は否定されない。

大統領に関税の権限を与えている法律は5つあり、関税を課せられる理由、関税の期限および関税率の上限がそれぞれ異なる。また、大きく分けると、事前調査が必要なものが3つ、不要なものが2つある。

次の3つの法律では、大統領が関税を課す前に、行政機関が関税の必要性について調査することが求められている。

  • 1962年通商拡大法の232条(Section 232 of the Trade Expansion Act of 1962)(以下、「232条」)
  • 1974年通商法の201条(Section 201 of the Trade Act of 1974)(以下、「201条」)
  • 1974年通商法の301条(Section 301 of the Trade Act of 1974)(以下、「301条」)

この3つの法律の違いは以下の通りである。

232条201条301条
関税の理由国家安全保障に対する脅威国内産業の被害貿易協定違反
関税の期限なし4年(8年への延長可能)4年(無期限の延長可能)
関税率の上限なし50%(徐々に下げていく必要あり)なし

出典〜Congressional and Presidential Authority to Impose Import Tariffs

次の2つの法律では、大統領は関税の必要性について調査せず関税を課すことができる。

  • 1974年通商法の122条(Section 122 of the Trade Act of 1974)(以下、「122条」)
  • 1930年関税法の338条(Section 338 of the Tariff Act of 1930)(以下、「338条」)

この2つの法律の違いは以下の通りである。

122条338条
関税の理由国際収支の赤字通商におけるアメリカ差別
関税の期限150日なし
関税率の上限15%50%

出典〜Congressional and Presidential Authority to Impose Import Tariffs

トランプ大統領は最高裁の判決が公開された直後、IEEPAに基づく関税を廃止した上で、122条に基づいた10%の関税を発表し、翌日、税率を上限の15%に引き上げた。

122条に基づく関税が発動されたのはこれが初めてである。

IEEPA以外を根拠に関税を課すことができるのであれば、最高裁の判決は無意味だったのでは?

最高裁の判決に意味があった理由は、IEEPAに基づいた関税と比べて、他の法的根拠はトランプ大統領の裁量や選択肢を狭めるからである。

IEEPAは大統領が国家的緊急事態を宣言さえすれば、関税の必要性を事前に調査しないまま、対象国や品目を限定せず、期限も税率の上限もなく、関税を課すことができた。国家的緊急事態宣言は大統領令を通じて行うので、ハードルは極めて低い。

他の法的根拠は、大統領の裁量を制約する。たとえば、122条に基づく関税は最高15%の関税を150日間しか課税できず、それ以降は連邦議会の承認が必要となる。現在、共和党が連邦上院および連邦下院で過半数を維持しているが、上院では奇妙な審議があるため、60議席を下回る共和党は法律を通そうにも民主党に阻止される可能性が高い。

また、232条、201条、301条に基づく関税はいずれも関税の必要性について調査することが求められている。トランプ政権は122条が発動されている150日間のうちに調査を行い301条に基づく関税を課す意図を示しているが、世界全国から輸入されているすべての品目について調査することは現実的ではないため、事前調査の要件は本質的な制約になると考えられる。

122条や301条に基づく関税は訴訟の対象となり得るの?

理論上は可能だが、訴訟が成功する可能性は高くない。

122条の場合、関税を課す理由が存在しないという訴訟が考えられる。トランプ大統領は貿易赤字を理由に122条に基づく関税を課したが、122条が意味する「国際収支の赤字(balance-of-payments deficits)」とは、対外債務を返済するだけの十分な外貨準備が不足している場合を指すと理解されている。122条が発動されたのは今回が初めてであるため、この主張がどう判断されるか見通すのは難しい。また、トランプ大統領は関税の期限である150日後に再度150日間の関税を課す可能性があるが、連邦議会の承認を得ないまま150日間の関税を連続的に継続することは、違法とみなされるだろう。

301条の場合、外国政府の措置が国際貿易協定の下でのアメリカの権利を侵害していることや、アメリカの通商が「不当(unjustifiable)」「不合理(unreasonable)」「差別的(discriminatory)」な形で制限されていることが調査により判明した場合、アメリカ通商代表部(United States Trade Representative、通称USTR)が関税を課すことができる。関税の期間は4年間と規定されているが、国産企業から要請があった場合は延長も可能である。

USTRの判断に異論を唱える訴訟が起こされても、司法としては、行政による調査結果や企業からの要請への対応に深く関与しにくいため、トランプ政権が敗北する可能性は低い。ただ、301条は課税する権限を大統領ではなくUSTRに与えていることに注意が必要だ。よって、行政手続法に基づく行政手続きに従わず大統領令で関税が発動されると、手続き的に不十分だとして裁判所に否定される可能性が高まる。

既に支払われた関税は還付されるの?

連邦最高裁の判決は還付の要否や方法について言及しなかったが、IEEPAに基づく関税が無効と判断された以上、徴収された「相互関税」は還付対象となるべきである。

通常、関税の還付を受けるためには、輸入者が米国税関・国境警備局(U.S. Customs and Border Protection)に対して申立てを行う必要がある。トランプ大統領は還付の処理について何年も法廷で争うだろうと述べていることから、行政として還付に対して協力しないことが示唆されており、還付のためにはCITで訴訟を起こす必要がある可能性が高い。

還付の対象となる関税は1750億ドル(約27兆円)との試算があるが、実際に還付を受けられるのは、還付処理のプロセスを踏み、必要となる訴訟に耐えられる大企業が主になると思われる。

今回の判決はトランプ政権にどのような影響を及ぼすの?

トランプ大統領はIEEPA以外にも関税を課す権限を有しているとはいえ、最高裁の判決はトランプ政権にとって大きな政治的打撃となる。

まず、これまでの最高裁はトランプ政権の判断を概ね追認してきた。よって、自身が任命した2人の保守系裁判官を含め6人の裁判官がトランプ政権の目玉政策を違法と判断し、三権分立の観点でトランプ大統領にブレーキがかかったこと自体が注意に値する。

また、この判決はトランプ政権の外交に大きな影響を及ぼすと思われる。これまでのトランプ大統領は、「いつでも・どこにでも・いくらでも」関税をかけられることを武器に諸国と交渉してきた。この威嚇を失ったことは、交渉相手国の交渉上の立場を相対的に強めるだろう。

判決と新たな関税の日本政府や日本企業への影響は?

最高裁の判決とそれに対するトランプ政権の新措置は日が浅いことから、中長期的な影響を見出すことが難しい。ただ、最高裁の判決によって極めて重要になったのは、「どの法律に基づいた関税の話をしているのか」という点である。

例えば、自動車の関税は232条を法的根拠としているので、最高裁の判決の影響を受けない。また、アメリカの調和関税表(Harmonized Tariff Schedule)に基づいて課税される一般的な基本関税は、232条、201条、301条、122条、338条とは別の法的根拠に基づく。法的根拠が異なる関税は上乗せできるため、特定の品目の関税の合法性を判断するにあたっては、関税率の内訳と法的根拠を一つずつ紐解いていく必要がある。

もっとも、大統領に与えられている関税の権限は幅広いので、トランプ政権はどのみち課したい関税をかけることができると考えられる。よって、日本政府が昨年7月、アメリカ政府が関税を引き下げることの引き換えに約束した5500億ドル(約85兆円)のアメリカへの投資は影響を受けないと思われる。

日本企業にとっての一番の関心は、無効となった関税の還付であろう。長期の法的手続きに耐えられる企業なら、早期に還付の手続きを開始することが望ましい。

いずれにせよ、日本政府・企業双方にとって、今回の連邦最高裁の判決は不確定要素を増やしたと考えられる。2025年1月に就任して以降、トランプ大統領はIEEPAに基づく関税を使って日本に対する圧力をかけ、2025年を通じて対応が進み、状況は一定の安定を見せ始めていた。判決はその安定した状況を揺るがすことになり、日本としては、トランプ政権の動きに対して昨年のように注視する必要が生じている。

0
0

コメントを残す