大統領候補の不在〜トランプまたはバイデンが撤退・死去したらどうなる?〜

大統領候補の不在〜トランプまたはバイデンが撤退・死去したらどうなる?〜

2024年の大統領選の予備選は早々と決着がつき、ドナルド・トランプ前大統領が共和党の指名候補に、ジョウ・バイデン現大統領が民主党の指名候補になることが確実となった。もっとも、トランプとバイデンはそれぞれ77歳と81歳と高齢である上、バイデン大統領は低迷する支持率に悩まされている。党の大統領指名候補が死去または撤退する可能性が否定できないので、ここではその場合どうなるのかを解説する。

簡潔にまとめると、どうなるの?

どのタイミングで大統領指名候補が不在になるかで異なる。

大統領選の流れをおさらいすると、次の通りとなる。

  1. 今後、(形式的ながらも)予備選は各州が定めたスケジュールに則って実施されていく
  2. 夏に共和党・民主党の党大会が開催され、党の大統領候補が正式に指名される
  3. 11月の第1火曜日にアメリカ全国で有権者が大統領候補に投票する(本選挙)(厳密には、この日に選ばれるのは後日の投票で大統領を選ぶ”選挙人”
  4. 12月の第3月曜日に”選挙人”による投票が実施され、次期大統領が正式に決まる
  5. 1月20日に次期大統領が正式に大統領に就任する

この流れを踏まえると、大統領候補が不在になるタイミングは5つのシナリオがあり、それぞれにおける代わりの大統領候補の決め方は次の表に示す通りとなる。

タイミング代わりの大統領候補の決め方
① すべての州で予備選が終了する前既存の候補と新たに参入する候補で、指名争い(党大会代表者獲得レース)が続く
② 予備選終了後から党大会まで党大会代表者が党大会で大統領指名候補を決める
③ 党大会から本選挙の投票日(11月の第1火曜日)まで党全国委員会が大統領指名候補を決める
④ 本選挙の投票日から”選挙人”による投票日(12月の第3月曜日)まで選挙人が次期大統領を決める
⑤ “選挙人”による投票日から就任日(1月20日)まで次期副大統領が大統領に就任する

なお、上記①と②の間に、党の指名争いを勝ち抜いた候補が副大統領候補を指名するという重要なイベントがある。②〜④の場合は副大統領候補が指名済みのタイミングなので、副大統領候補が大統領候補に昇格するのが自然な流れとなる可能性が高い。

副大統領候補がいないタイミングである①の場合は、混乱の無法地帯に陥るだろう。

予備選が残っているタイミングで候補不在になった場合、具体的にはどうなるの?事例はあるの?

スーパー・チューズデーも終わり、指名争いには決着がついてしまったが、まだ半数近くの州で予備選が実施されていない。トランプやバイデンが指名候補になれない場合、残りの予備選の意義が急増することになる。

これら予備選には、既に大統領選に名を挙げていたニッキー・ヘイリー元国連大使(共和党)ディーン・フィリップス連邦下院議員(民主党)の他にも、(理論上は)新たな候補が参入することが可能である。ただ、その場合、公示日が問題となる。大半の州で公示日が過ぎてしまっているため、原則として、投票者は新たな候補者に一票を入れることができない。(もっとも、州が予備選を遅らせて新たな候補が参加できるようにすることも可能だ)

いずれにせよ、指名争いが再開しても、どの候補も党大会代表者の過半数を獲得できないことは確実。よって、党大会での政治の駆け引きにより大統領指名候補が決まるBrokered Convention(”割れた党大会”)も確実となる。

もしトランプがこのタイミングで死去した場合、共和党側の指名争いはカオスになるだろう。党大会代表者獲得レースで2位になっているヘイリーは党内の人気が欠けていることから、党の有力者がトランプの代わりとしてヘイリーを認めるとは想像しがたい。そうなると、トランプの代わりは誰でもあり得そうだ。

民主党側はもっとすんなりいきそうで、もしバイデンがこのタイミングで死去した場合、カマラ・ハリス副大統領(Kamala Harris)がバイデンの代わりとなるのはほぼ確実だろう。カリフォルニア州知事であるギャビン・ニューサム(Gavin Newsom)やバラク・オバマ元大統領の夫人であるミシェル・オバマ(Michelle Obama)の名前も挙がっているが、大統領になる野望を持っている多くの知事や連邦議員は、ハリスなら納得するだろうが、他の候補に納得するとは考えにくい。

なお、予備選中に有力候補がいなくなった例は、現職大統領が撤退した1952年と1968年にあったが、当時は党大会代表者が選挙以外の方法で選ばれており、大統領候補指名争いが今ほど民主化されていなかったので、現代ではこれら事例はあまり参考にならない。

予備選終了後から党大会前のタイミングで候補不在になった場合、具体的にはどうなるの?事例はあるの?

プロセス的には、党大会における党大会代表者による投票で指名候補が決まる。よって、実質的には、予備選が残っているタイミングと同様に政治の駆け引きになると言える。

ただ、その投票結果で誰が指名されるかは、副大統領候補が指名されているか否かで大きく異なるだろう。

もしトランプが副大統領候補を指名したのちに死去したら、(民主党側でハリス副大統領が自然な代わりとなるのと同じように)共和党側も副大統領指名候補が最有力候補になると思われる。ただ、この時点での副大統領候補はトランプの意思のみで選ばれているため、野心家の知事や連邦議員が副大統領候補にすんなり譲らないことも想定される。

最近の大統領選においては、このタイミングで大統領指名候補が不在になったことはない。

党大会で正式に指名されてから11月の本選挙前のタイミングで候補不在になった場合、具体的にはどうなるの?事例はあるの?

プロセス的には、党の全国委員会が代わりの大統領指名候補を決めることになる。(共和党の場合は、全国委員会が党大会を再開催することも可能)

ただ、この場合、党大会における党大会代表者の投票により副大統領候補が正式に指名されているので、副大統領指名候補が大統領指名候補に昇格する可能性が極めて高い。

最近の大統領選においては、このタイミングで大統領指名候補が不在になったことはない。(1972年に民主党の副大統領指名候補が不在になったことがあるが、この時は、大統領指名候補が指定した代わりの副大統領候補を民主党全国委員会が追認した)

11月の本選挙以降12月の選挙人の投票前のタイミングで候補不在になった場合、具体的にはどうなるの?事例はあるの?

プロセス的には、選挙人の投票によって次期大統領が決まる。

州によっては、本選挙において州で勝った候補に選挙人が投票することを義務付けており、州で勝った候補が死去してしまった場合、州議会が州法を改正しないと、選挙人は死者に投票せざるを得なくなる。

選挙人が自由に投票できる場合、州で勝った副大統領候補に投票することが最も自然な流れとなるが、この点に関して法律は極めて曖昧であり、そもそも各州の法律によって異なる。

このタイミングで大統領指名候補が死去したことは、過去に一度だけあった(1872年の大統領選)。ただ、その時死去したのは11月の本選挙で敗北したホレス・グリーリーだったので、実質、結果には大きな影響はなかった。

12月の選挙人の投票で次期大統領に確定した後のタイミングで次期大統領不在になった場合、具体的にはどうなるの?

アメリカ連邦憲法修正第20条に基づき、12月の選挙人の投票により選ばれている次期副大統領が自動的に大統領に就任する。ただ、「次期大統領」が確定するのが、“選挙人”による投票なのか、”選挙人”の投票結果を連邦議会が承認したときなのか、曖昧さが残る。

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