2025年10月1日に始まったアメリカ連邦政府の閉鎖は、11月12日(現地時間)につなぎ予算が成立したことで終了した。ここでは、つなぎ予算が前年度の支出を来年1月まで維持する内容であること、つなぎ予算は連邦上院の民主党議員と民主党系の無所属議員の一部が大きく譲歩したことで成立したこと、譲歩の背景には空港の管制官不足がもたらした国民生活への影響が大きかったこと、政府閉鎖終結が日本企業にもたらす影響などについて解説していく。
成立した予算はどのような内容なの?
つなぎ予算(正式には継続予算決議(Continuing Resolution)、以下CR)は、大部分の政府機関の予算を2026年1月30日まで2024年度水準で延長する。ただ、連邦農務省(United States Department of Agriculture)、連邦退役軍人省(United States Department of Veterans Affairs)、軍事建設、連邦議会の運営に関連する支出については、つなぎ予算ではなく、2025年会計年度(2026年9月30日まで)の予算が成立した。
CRによって、政府閉鎖期間中に無給で勤務を強いられていた連邦政府職員と休職していた連邦政府職員への給与が遡って支払われる。また、政府閉鎖中にトランプ政権が進めた連邦職員の解雇は取り消される。
民主党と共和党はそれぞれどのような点を譲歩したの?
重要なことに、成立したCRはいわゆる「クリーンCR」、つまり既存の政策を変えずに前年度の水準を延長するつなぎ予算だった。共和党は政府閉鎖が始まる前から「クリーンCR」を提案しており、CRに医療補助金の復活を含むことを求めていた民主党議員の一部が要求を取り下げたことで、CRが成立した。
これと引き換えに、共和党は医療補助金を復活させる法案を連邦上院で12月の2週目までに表決することを約束した。だが、共和党が連邦上院と連邦下院の双方で過半数を占めているため、この法案が成立する可能性は皆無である。
なぜ民主党議員の一部はクリーンCRを受け入れたの?
43日間に及んだ今回の政府閉鎖は、第1期トランプ政権中に起こった35日の閉鎖を超えて史上最長となり、国民生活に対する影響が目に見えて強まったからである。
特に空港の管制官不足による便の欠航や遅延が深刻化した。管制官は「生命・財産の保護」のために必要なエッセンシャル(essential)職員として政府閉鎖中も勤務を継続することが求められているが、給与が支払われないため、政府閉鎖が長引くにつれて休職する職員が急増した。その結果、連邦運輸省長官(United States Secretary of Transportation)は11月6日(現地時間)に40の空港で便数を10%減らすよう命令し、感謝祭前に欠航や遅延が拡大することへの懸念を示した。感謝祭(Thanksgiving)は11月27日〜28日にある祝日で、前後は日本のゴールデンウィークレベルの旅行ピーク時期となる。感謝祭に家族で集まるのがアメリカの慣習であるため、政府閉鎖のせいで国民が感謝祭に一緒になれない事態は政治的に看過できないものとなった。
ドナルド・トランプ大統領は政府閉鎖が続く限り医療補助金について交渉するつもりはないという姿勢を貫いていたことから、妥協した民主党議員は政府閉鎖を継続しても目的は達成できないと判断した。彼らは、来月共和党が医療補助金の継続を拒否するだけで、来年の中間選挙を有利に進められると考えたのだろう。
11月4日にニュージャージー州とバージニア州知事選で民主党が完勝したことは、民主党に有利な形で政府閉鎖を終結させるきっかけとはならなかった。
妥協した民主党議員の属性は?
予算が成立するためには、立法プロセスに則って、連邦上院、連邦下院を通過したのち、大統領が承認する必要がある。共和党は両議院で過半数を維持しているが、定数100議席の連邦上院には奇妙な審議の仕組みがあり、CRを通過させるには60票の賛成が必要。共和党は53議席しか有していないため、民主党議員の一部が賛成しない限り可決させられない状況だった。
11月10日(現地時間)、週末を通して共和党の執行部と交渉していた民主党議員と民主党系の無所属議員8人がCRに賛成したことで、CRは賛成60票で連邦上院を通過した(共和党議員1人が造反)。この8人は全員来年の中間選挙で引退するか非改選であるため選挙に立つ必要がなく、4人が元知事として行政機能停止の悪影響を理解できる立場にいる議員であったことが特徴的だ。
連邦下院は11月12日(現地時間)、222対209の票でCRを可決させた。6人の民主党議員が賛成したが(共和党議員2人が造反)、彼らは中道的な議員だった。
民主党議員の大半は妥協することに猛反発し、党内の徹底抗戦派と現実路線派の対立が露出した。民主党の執行部は上院・下院双方において概ねCRに反対しており、唯一の例外は、来年引退することが決まっている連邦上院の民主党No. 2だった。
来年2月からまた政府が閉鎖される可能性はどれほどあるの?
CRは2026年1月までのつなぎ予算であるため、年が明けるとまた予算をめぐった駆け引きが起こる可能性がある。ただ、今回の政府閉鎖の引き金となった医療補助金復活については12月中に否決される見込みなので、同じ理由で再び政府閉鎖が起こる可能性は極めて低い。
なお、先週大きな政治的争点となった食料支援制度「SNAP(Supplemental Nutrition Assistance Program)」の給付金については、CRとは別に連邦農務省の通年予算が成立したので、2026年2月までに新たな予算が成立しなくても、2026年9月末まで継続される。
政府閉鎖終結が日本企業に与える影響は?
政府閉鎖中、アメリカ連邦政府から許認可が得られなかったり、アンチダンピング関税など貿易救済措置に関する調査が停止したりして、日本企業にも少なからず影響があった。さらに、航空便の混乱は日本からの出張・駐在員の移動を不便なものにした。CRの成立によって、これらはすべて正常化される。
ただ、来年1月には再び予算交渉が再燃する可能性がある。日本企業にとっては、今後の政治動向を注視しながら、今回の政府閉鎖を踏まえ、再びの政府閉鎖に備えることが望ましいかもしれない。