機能不全状態の連邦下院〜共和党は党内の亀裂により、民主党の協力が欠かせない状態に〜

機能不全状態の連邦下院〜共和党は党内の亀裂により、民主党の協力が欠かせない状態に〜

連邦下院で過半数の議席を保有している共和党が、民主党の協力なしには、法案を可決できないどころか、下院議長の解任を阻止することさえできなくなっている。この異常な状況とその背景、そして今後の見通しを解説する。

現在の共和党と民主党の議席数は?

2024年4月21日時点で、共和党が217議席、民主党が213議席保有しており、5議席が空席だ。2人以上造反すると共和党は過半数を維持できなくなり、1議席の過半数は近年では例がない。

2022年11月に実施された中間選挙の結果、共和党は222議席獲得したが、所属議員の辞任や補選の敗北により、もともと僅差だった差がさらに縮まった。

僅差とは言え、誰も造反しなければ共和党は過半数を維持できるのでは?

理論上は共和党が過半数を維持しているが、党内の亀裂が深刻で、党執行部は常に10人前後いる「造反待機組」に脅かされている。これら10人はウクライナ支援に反対したり、強硬的な移民政策を推奨する過激派で、トランプ前大統領の熱狂的な支持者でもある。

共和党の造反待機組がもたらしている下院への影響は?

本会議で採決されれば民主党と共に可決できる法案が、共和党内の亀裂により、採決まで至らないことが多い。

アメリカで法案を成立させるためには、原則として、連邦下院と連邦上院を通過させるだけでなく、大統領の承認も必要である。現在、連邦上院では民主党が過半数を維持しており、バイデン大統領も民主党に所属しているので、共和党は独自で法案を成立させられる立場にない。

したがって、下院の共和党執行部は民主党に譲歩してでも法案を通そうとするのだが、そうすると共和党内で造反者が発生してしまう構図になっている。

民主党と協力すれば、共和党執行部は造反待機組の影響を排除できるのでは?

共和党の執行部にとって、民主党との協力は諸刃の剣である。

民主党と協力すれば本会議で多くの法案を可決できるが、そうすると、造反待機組が激怒し、下院議長解任(不信任)案を提出しかねない。野党である民主党が同案に賛成するのは自然なことで、共和党の造反者に加えて民主党も賛成すると議長は解任される。だが、共和党内で後任候補に合意できないので、いつまでたっても下院議長が選定されず、下院での審議が止まってしまう。

これがまさに昨年秋に予算を巡って起こったケヴィン・マッカーシー(Kevin McCarthy)議長解任騒動の顛末である。その時は、2週間の共和党内のドタバタを経て、4人目の候補だったマイク・ジョンソン(Mike Johnson)がなんとか後任の下院議長に選ばれた。その期間、下院は何の審議もできず、機能不全状態に陥っていた。

現在の下院は、共和党内の少数の過激派が下院全体を人質に取っている状態だと言える。

共和党が機能してないなら、民主党が主導権を握れるのでは?

共和党内の中道派と民主党が組めば、過半数を保有していない民主党でも主導権を握ることができる。

だが、共和党の中道派は、中道的とは言え共和党所属議員であり、民主党とは思想的に隔たりがある。下院での民主党のトップであるハキーム・ジェフリーズ(Hakeem Jeffries)院内総務(minority leader)を議長として認める可能性は極めて低い。

他方で、通常なら少数派として影響力が出せない民主党としては、法案に対する修正等を共和党から引き出せれば御の字だと言える。現実的には、一定の譲歩を条件に共和党執行部に協力するのが民主党にとってのベストシナリオだろう。

そうなると、実質、下院は共和党と民主党の連立という極めて珍しい状態になる。

今後の見通しは?

共和党内では、過激な造反待機組に嫌気が差している中道派議員が増えてきており、その不和の空気が、既に今年11月の選挙での不出馬を表明していた議員による任期満了前の早期辞任ドミノを引き起こしている。

これ以上所属議員に辞任されてしまうと共和党は過半数を失いかねないので、執行部は、民主党の協力を得てでも造反待機組の影響力を削ぐ動きを見せるだろう。

実際、2024年4月20日に下院で可決されたウクライナ支援法案は、共和党側から112人もの造反者が出たものの、民主党の全員一致によって可決された。

共和党内の造反待機組の一部は、法案可決直後、議長解任案を提出することを仄めかした。民主党は、議長を解任しても下院がカオス状態に陥るだけであることを昨年秋の騒動から理解しているので、今回は、ジョンソン議長からなんらかの譲歩を得た上で、議長解任案に反対するだろう。

トランプ前大統領の関与は?

トランプ大統領は共和党内で圧倒的な支持を維持しており、共和党下院議員の間でも一定の影響力がある。ウクライナ支援法案の採決において、共和党の造反者が通常の「造反待機組」より大幅に多かったことが、プーチン大統領寄りのトランプの影響力を示している。

トランプはジョンソン議長について否定的ではないと思われている。だが、造反待機組の一部は、2023年1月にマッカーシー議長就任に反対し続けた時から「これは下院の問題」と聞く耳持たずで、トランプさえコントロールできなくなっている。

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