共和党の副大統領候補になったJ・D・バンス〜トランプが選んだ理由と大統領選への影響は?〜

共和党の副大統領候補になったJ・D・バンス〜トランプが選んだ理由と大統領選への影響は?〜

共和党の党大会の初日、ドナルド・トランプはJ・D・バンス(J.D. Vance)連邦上院議員を副大統領候補に指名した。ここでは、バンスとは誰なのか、なぜトランプが彼を選んだのか、そしてバンス指名の大統領選への影響を解説していく。なお、カマラ・ハリスによるティム・ワルツの指名の解説は、こちらを参照されたい。

J・D・バンスとはどういう人物?

バンスは39歳のオハイオ州選出の現職連邦上院議員。2022年11月に初当選したばかりで、政治家としての経験は極めて浅い。

政治家になる前、彼は「ヒルビリー・エレジー」という本を書いて有名になった。この自伝は、オハイオ州で貧困な家庭に生まれ、ケンタッキー州で白人労働者階層の一員として育ったバンスが、アメリカ海兵隊に入隊し、大学とロー・スクールを卒業してからベンチャーキャピタリストになって貧困から抜け出した話である。2016年の大統領選でトランプが白人労働者階層の票を集めて当選すると、この本は「トランプ現象」を説明する本として爆発的に売れた。

もっとも、2016年大統領選中のバンスは、自分を「Never Trumper」、つまり絶対にトランプには投票しない人であるとテレビ番組に出演しては宣言していた。にもかかわらず、2022年に上院選に出馬した際に豹変し、トランプの推薦を得て当選した。そして、当選後のバンスは、トランプに最も忠誠的な議員として注目されてきた。

バンスは副大統領候補としてどう評価されるべきなの?

アメリカの副大統領の正式な役割は基本的に一つしかなく、大統領が死去・辞任した時に大統領の役割を担うことである

その観点では、バンスは2008年の共和党の副大統領指名候補だったサラ・ペイリン以来の不適任者だろう。当時のペイリンはアラスカ州知事に就任してから1年半しか経っておらず、現在のバンスとほぼ同等の経験値だった。

「もしトランプが死去したらバンスに大統領が務まるか」という最も肝心な質問に対して、肯定的に回答することにはだいぶ無理がある。

じゃあ、政治的な判断としてバンスの指名は評価できるの?

こちらで解説したとおり、実際問題として、副大統領候補は適任性ではなく政治的な理由で選ばれることが大半だが、その観点でもバンスの指名には首を傾げたくなる。

通常、副大統領候補は次のような基準で選ばれるが、バンスにはどれ一つとして該当しない。

  • 党内緩和のため、大統領指名候補が予備選で争った相手を選ぶ〜トランプに忠実なバンスはそもそも支持層が同じなので、党内緩和に繋がらない
  • 経験が浅い大統領指名候補が、経験豊富の候補を選ぶ〜バンスはまだ1期目の折り返し点さえ迎えていないので、バンス自身が未経験だと思われている
  • 苦戦している大統領指名候補が、話題性のある候補を選ぶ〜もともと名が知られているバンスの指名には、無名だったペイリンが選ばれた時のような意外性はない
  • 支持を広げたい大統領指名候補が、自分とは支持層が異なる候補を選ぶ〜白人労働者階層の支持を得て当選したトランプと、白人労働者階層の一員として育った自伝を出版したバンスは、完全に支持層が被ってる

ちなみに、支持層を強化するという目的でもバンスは評価しがたい。

2022年の初当選の際、バンスは6ポイントの差で当選したが、同時に行われた知事選では共和党の現職が25ポイントの差で圧勝、2年前の大統領選ではトランプが8ポイントの差で完勝している。バンスは決して支持層が厚いとは言えないのだ。

なら、トランプはなぜバンスを選んだの?

世論調査と暗殺未遂事件のインパクトを踏まえて、トランプは副大統領が誰であろうとバイデンに勝利できると考えた可能性がある。どうせ選挙に勝てると思っているのであれば、通常の基準で副大統領候補を選ばなくても不思議ではない。

では、トランプは何を重視したのか。

まず、彼の性格からして、副大統領には忠誠性を求めたであろう。初当選前の言動はさておき、政治家になってからのバンスは他の有力候補の誰よりトランプに忠実だったことは間違いない。

さらにトランプは、自分の思想を引き継ぐ適任な後継者を探していたのかも知れない。そう考えると、トランプより40歳も若いバンスの指名はしっくりくる。バンスがトランプの意思を引き継げば、トランプは2世代先まで共和党にインパクトを与えることができるのだ。

結局、バンスの指名は大統領選にどのような影響を及ぼすの?

バンスの指名はトランプにとってマイナスに働く可能性がある。

暗殺未遂事件以降、トランプの支持者が彼に投票してくれることは確実であった。トランプと支持層が被っているバンスはトランプの支持層になんら貢献できない。

他方、トランプの思想に抵抗感を感じながらも共和党に投票してもいいと考える投票者(たとえば、予備選で最後までトランプと戦い続けたニッキー・ヘイリーを支持していた都市郊外の有権者)にとっては、トランプがバンスと組んだことは忌避感が嫌悪感に増長し、さらに票が逃げるかもしれない。

バンスの指名はある意味この大統領選の先を見据えた選択である。客観的に見てこの選挙はまだ僅差であることを考えると、もっとこの選挙への貢献を重視したほうが安全だったのではないかと思わせるほど、バンスの指名は危うい選択である。

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