トランプ政権が郵便投票に新ルール〜選挙直前の変更は合法なのか〜

トランプ政権が郵便投票に新ルール〜選挙直前の変更は合法なのか〜

ドナルド・トランプ大統領は、11月の中間選挙を前に、郵便投票用紙の発送方法を全国的に変更する新しい仕組みを導入しようとしている。これを実施するために、アメリカ合衆国郵便公社(U.S. Postal Service)は新たなシステムを構築しているが、内部告発者からは運用開始に必要な準備やテストが十分に行われていないとの指摘が出ている。本稿では、なぜ中間選挙の投票が始まる時期になって、郵便投票の仕組みが変更されようとしているのかを整理する。そのうえで、選挙の運営を原則として州が担うアメリカでトランプ大統領や郵便公社がこうした変更を行う権限を有するのか、そしてこの争いがすでに始まっている中間選挙にどのような影響を与えるのかを見ていく。

アメリカでは郵便投票はどのように行われているのか

アメリカでは、郵便による投票がすべての州で何らかの形で認められている連邦制に基づき選挙の運営を担っているのは原則として州であるため、誰が郵便投票を利用できるのか、投票用紙をどのように受け取るのか、いつまでに返送しなければならないのかといったルールは州によって異なる。

カリフォルニア州(California)を含む8州では、すべての有権者に投票用紙が自動的に郵送される。29州では、投票用紙は自動的には送られないものの、有権者が希望すれば理由を示さずに郵便投票を申請することができる。残る13州では、病気や障害、選挙日に居住地を離れていることなど、州法で定められた理由がなければ郵便投票を利用できない。2024年大統領選では1億5800万票以上が集計され、そのうち約4700万票(約30%)が郵便投票であった

郵便投票では、まず州が州法に基づいて、どの有権者に投票用紙を送付するかを決める。すべての有権者に投票用紙を郵送する州であれば有権者名簿に基づいて発送し、有権者が申請する制度であれば申請内容を確認したうえで発送する。その後、選挙当局は投票用紙を封筒に入れて郵便公社に引き渡し、郵便公社が郵便網を通じて有権者の住所まで届ける。

ここで、郵便投票に特有の州とアメリカ連邦政府の関係が生じる。誰に投票資格があり、誰に郵便投票用紙を送るのかを決めるのは州である。一方、その投票用紙を実際に有権者まで運ぶ郵便公社は、連邦政府に属する独立機関である。つまり、州が「この有権者に投票用紙を送る」と決めても、郵便を利用する限り、実際の配送は連邦政府に依存することになる。

トランプ大統領は郵便投票をどう変えようとしているのか

郵便投票をめぐる今回の争いは、トランプ大統領が2026年3月に出した大統領令から始まった。この大統領令は、連邦選挙における市民権の確認をはじめ、選挙制度に関する複数の措置を打ち出したもので、その一つとして、郵便公社に対し、州が投票用紙を郵送する際の新たな条件を設けるよう求めた。これはトランプ大統領がこだわりを示している「選挙の公正性(election integrity)」に関する政策の一環である。

この大統領令を受けて、郵便公社は8月26日(現地時間)に最終規則を制定した。この規則は、連邦選挙の投票用紙を郵送する州に対して、封筒を郵便公社の基準に適合させ、固有のバーコードを付けることを求めている。州はさらに、封筒のデザインについて事前に郵便公社の審査を受けなければならない。また、投票用紙を受け取る有権者の氏名や住所、投票用封筒に付されたバーコードなどの情報を、新たに設けられる連邦投票郵便ポータルへ登録する必要がある。

郵便公社は、州が引き渡した投票用紙のバーコードを読み取り、対応する情報がポータルに登録されているかを確認する。確認できなければ、郵便公社は受け付けを拒否する。

従来は、州が州法に基づいて「この有権者に郵便投票用紙を送る」と決めれば、郵便公社はその投票用紙を有権者に届けていた。しかし、新しい規則では、州が投票用紙を発送しようとしても、郵便公社によるデータ照合を通過しなければ配送されないという段階が新たに加わる。

内部告発者はどのような問題を指摘したのか

郵便公社がこの新しい仕組みの準備を進める中、リチャード・ブルーメンソール(Richard Blumenthal)連邦上院議員は9月1日(現地時間)、システム開発の状況を知る内部告発者から匿名で寄せられた情報を公表した

内部告発によると、システムの開発とテストは異例の短期間で進められている。連邦投票郵便ポータルの開発が始まったのは6月で、通常であれば開発とテストに9〜12か月程度を要するという。しかし今回は、9月1日の運用開始まで約3か月しかなかった。

さらに深刻な問題として指摘されたのが、投票用紙を受け付ける際の確認方法である。郵便公社は、州が持ち込んだ投票用紙を一通ずつ確認するのではなく、バッチの規模に応じて15通から400通を抽出し、バーコードを読み取って事前にポータルへ登録された情報と照合する。ところが、この抽出検査では一つのエラーも許されない。例えば1万通のバッチの場合、抽出された投票用紙のうち一通に問題が見つかっただけで、検査されていない投票用紙も含む1万通すべてが州に差し戻される。

特に問題視されているのは、こうしたエラーが、有権者の投票資格に問題がある場合に限って生じるわけではないことである。バーコードを読み取れない、ポータルに登録された情報との照合ができないといった技術的な問題でも、バッチ全体が拒否される可能性がある。

この制度に対するトランプ政権・郵便公社と州の主張はどのようなものなのか

アメリカでは、連邦憲法上、選挙の運営は原則として州が担っている。誰に投票資格を認めるのか、どのような方法で投票を行うのかなど、大半の選挙ルールは州法によって定められている。

一方、郵便公社には郵便事業を運営するための権限が与えられている。連邦法は、郵便公社がその機能を遂行するために必要な規則を制定する権限を認め、郵便物の収集、取扱い、輸送、配達などが郵便公社の機能として定められている

郵便公社は、今回の規則もこの権限に基づいて郵便物の取扱いを定めたものにすぎないとしている。つまり、郵便公社が規制しているのは「選挙」ではなく「郵便」であり、州が郵便公社を利用して投票用紙を送る以上、その郵便物を受け付ける条件を定めることは、郵便事業を運営する権限の範囲内であるというのが、トランプ政権や郵便公社の主張である。

これに対して規則を争う多くの州は、今回の規則は通常の郵便物の取扱いを定める範囲を超えていると主張している。州に対して、投票用紙の送付先の情報を新しいシステムへ登録するよう義務付け、それに従わなければ、州が適法に発送しようとする投票用紙を郵便公社が受け付けないことは、形式上は郵便の規則であっても、実質的には州による選挙の運営に条件を付けているという考えである。

新しい規則は最終的に合法と認められるのか

重要なのは、今回の規則によって、連邦政府がこれまでないほど郵便投票の発送過程を通じて州による選挙の運営に介入することである。

投票用封筒の表示やバーコードなど、郵便物そのものを処理するための条件を定めることについては、郵便公社側にも一定の法的根拠がある。しかし、郵便を管理する一般的な権限だけを根拠として、有権者情報の登録を義務付け、条件を満たさない投票用紙を受け付けない権限があるとは考えにくく、違法と判断される可能性が高い。さらに、連邦政府が州による選挙の執行にここまで関与すること自体、アメリカ連邦憲法上の権限配分という大きな問題を生じさせる。

加えて、2026年中間選挙に向けて、各州がこの段階から新しい規則に対応することが現実に可能なのかという問題がある。多くの州ではすでに投票用紙や封筒を発注している。ここから新しい規則に合わせて封筒を設計し直し、郵便公社の審査と承認を受け、必要に応じて再印刷したうえで、有権者データを新しい連邦投票郵便ポータルへ登録する必要がある。残された期間を考えれば、各州がこれらの作業を完了することは極めて困難である。しかも、9月3日時点(現地時間)で、ポータルはまだ利用できる状態になっていない

ノースカロライナ州(North Carolina)は9月4日(現地時間)に投票用紙の発送を始めたことから、同州では投票が始まったことになる。選挙期間中に新しい規則を執行すれば、同じ2026年中間選挙において、先に投票用紙が発送された有権者には従来の仕組みで投票用紙が送られ、その後の有権者には新しい条件が適用されるという事態が起こる。同じ選挙に参加する有権者でありながら、投票用紙が発送された時期によって異なる手続が適用されることは問題視される可能性がある。

9月4日(現地時間)、連邦第一審裁判所は中間選挙まで新しい規則の執行を差し止めた。トランプ政権はこの差止命令の効力を停止するよう連邦最高裁に緊急の申立てを行っており、申立てが認められれば、新しい規則を執行することができるようになるかもしれない。

郵便投票の混乱は中間選挙にどう影響するのか

郵便投票の利用率には党派による差がある。2024年大統領選では、民主党支持者の37%が郵便投票を利用したのに対し、共和党支持者の間では24%だった。そのため、新しい規則によって投票用紙の発送が遅れたり、大量の投票用紙が差し戻されたりすれば、民主党支持者がより大きな影響を受ける可能性がある。

特に連邦上院選では、複数の州で僅差の争いが続いている。郵便投票をめぐる混乱がこうした州の結果を変えれば、それによって連邦上院の多数派が変わる可能性もある。中間選挙でどちらの党が議会の多数派を握るかは、トランプ政権が残り2年間でどこまで政策を実現できるかを大きく左右する。

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