アメリカの立法プロセスは、立法府だけでなく執行府(大統領)も関与する仕組みで、日本より複雑である。ここでは、アメリカ連邦政府の立法プロセスの概要を解説していく。なお、州レベルでも立法プロセスは概ね同じなので、州については、原則として、(別途解説がない限り)この解説の「大統領」を「知事」と読み替えて差し支えない。
アメリカの立法プロセスを簡潔に言うと?
原則として、法律(予算を含む)を成立させるためには、立法府を構成する連邦上院議院と連邦下院議院がそれぞれ可決し、執行府のトップである大統領も承認する必要がある。したがって、連邦下院、連邦上院、大統領の間で「ねじれ」が起こると法案が廃案になる可能性が高まる。
さらには、上院では原則として議員の5分の3が賛成しないと採決に進めないため、たとえ「ねじれ」が起こっていなくても、多数党が60議席を有していないと法案は可決されにくくなる。
このことから、アメリカで法律を成立させるハードルは極めて高い。
一般的な立法化の流れは?
下院先議の場合の流れは概ね以下の通りだが、歳入に関する法律以外は上院が先議することも可能である。
- 下院で審議し、可決されれば、法案を上院へ送付
- 上院で審議し、
- 修正なしに可決されれば、大統領へ送付
- 修正した上で可決されれば、下院に戻す
- 可決されなければ、廃案
- 下院と上院で法案の内容が異なる場合、修正案を両院の間でやり取りしたり、両院協議会を開催したりして相違点を調整し、
- 調整案がまとまり、両院が同じ内容の法案を可決すれば、大統領へ送付
- 調整案がまとまったものの、両院が同じ内容の法案を可決しなければ、廃案
- 調整案がまとまらなければ、廃案
- 大統領が議会から送付されてきた法案を10日以内に、
- 署名(承認)すれば、成立
- 拒否権を行使すれば、議会へ差し戻し
- 何もせず、議会が休会中でなければ、成立
- 何もせず、議会が休会していて法案を議院に戻せない場合は、廃案
- 下院と上院で大統領から差し戻された法案を再審議し、
- 両院で2/3で可決されれば、成立
- 両院で2/3で可決されなければ、廃案
なお、州の立法プロセスにおいては、知事が拒否権を行使した場合法案を成立させるための閾値が異なる場合がある。大半の州では連邦議会と同様の2/3であるが、より低い3/5や過半数でもよい州がある。
下院での審議と表決はどのように進むの?
下院では、過半数の賛成で法案は可決される。
原則として、審議には時間的な制限が設けられており、修正案の提示も厳しく管理されるので、審議が行き詰まることはあまりない。
上院での審議と表決はどのように進むの?
上院では原則として討論時間に上限がないため、法案に反対する議員は議事手続を利用して審議を長引かせ、採決を阻止することができる。このフィリバスター(filibuster)制度のため、上院では審議が行き詰まりやすい。(一定の歳入・歳出などに関する法案や大統領が指名した閣僚や連邦裁判官の人事については、過半数で採決まで進むことができる)
フィリバスターを終了させるためには基本的に60人の上院議員の賛成が必要となるが、上院の選挙の仕組み上、1つの政党が60議席以上を有していることは稀である。したがって、上院では、議員1人1人の賛成を得るために法案に修正を重ねて行くことがよくある。
もちろん、下院と上院の間で「ねじれ」が起こっていると、法案は廃案となる可能性が高くなる。
両院協議会って何?
上院で法案が修正されると、下院に法案の修正版に賛成してもらう必要があるが、お互い修正を繰り返すなど平行線を辿ると、下院と上院の代表者で構成する両院協議会(Conference Committee)が開催され、相違点を埋めようとする。
両院協議会で調整案について合意に至れば、調整案が両院で表決され、可決か否決される。この場合、法案に対する更なる修正は認められない。(永遠と修正が続いてしまうため)
両院協議会で合意に至らなければ、法案は廃案となる。
大統領の署名(承認)・拒否はどのように行われるの?
両院を通過した法案について、大統領には、(日曜日を除く)10日以内に署名(承認)するか、拒否権を行使するか、何もしないかの判断が求められる。(州の立法プロセスにおいては、知事による判断が求められる期間が州ごとに異なる)
大統領が10日以内に署名すれば、法案は成立する。
大統領が10日以内に拒否権を行使する場合、拒否した理由を付して、法案が先議された議院に戻す。
大統領が10日以内に何もしない(署名も拒否権の行使も行わない)と、議会が休会していない限り、法案は成立する。
大統領が10日以内に何もせず、議会が休会していて法案を議院に戻せない場合は、廃案となる。
なお、大統領は法案すべてに対して承認か拒否をする必要があり、部分的に承認・拒否することはできない。これは州の立法プロセスと異なり、一部の州の知事は法案の一部分のみ拒否する権限を与えられている。
両議院による再表決はどのように進むの?
大統領が拒否権を行使して議会に戻ってきた法案は、両議院による2/3の決議で大統領の拒否権を覆すことができる。法案は修正されてはならない。
どちらかの議院で2/3で可決されなければ、法案は廃案となる。
上院・下院に優越権はないの?
下院には歳入に関する法律の先議権があるが、法案を含め優越権はない。上院も優越権は有しないが、大統領の閣僚や条約を承認する権限は上院しか有しないため、上院は下院より権限が強いと言える。
アメリカの立法プロセス上、法案の成立は相当難しいのでは?
確かに、法案や予算に対する下院、上院、大統領のそれぞれの賛同が必要で、どこも優越権を持たず、さらに上院では1人の議員が審議を止められるので、「ねじれ」が起こりやすい。よって、予算さえも成立させにくく、政府閉鎖のようなことが頻繁に起こる。
少なくとも、法案が議会を通過して大統領が承認すれば、法律は施行されるの?
アメリカの裁判所は違憲審査権(法律が憲法に違反するため無効であると判断する権利)を頻繁に行使するので、そうともいえない。
特に近年の連邦最高裁判所は連邦制の概念を尊重する傾向にあり、連邦議会が成立させた法律について、アメリカ連邦憲法上、そもそも連邦議会に立法権がないという判決を度々下している。
アメリカでは多くの法律が訴訟の対象となるため、議会と大統領によって成立した法律であっても、その後、具体的な訴訟の中で司法府によって違憲と判断され、執行できなくなることがよくある。
大統領令は法律とどう違うの?
法律の成立・施行には多くの手間と長い時間がかかるので、特に20世紀以降の大統領は法的拘束力がある大統領令を頻繁に発布するようになってきている。
大統領令は将来の大統領の裁量で覆せるので、法律と同じ効果があるとは言い難い。
米英ともに判例主義であるがイギリスには憲法がないと伺ってます。イギリスの方がアメリカより立法における司法の力が強いと考えていいのでしょうか?あと米英の上述観点での良い点、悪い点を簡単に教えていただきたいです。