大統領選の予備選(党候補指名争い)の仕組み

大統領選の予備選(党候補指名争い)の仕組み

アメリカ大統領選は11月に実施されるが、それに先立って、各政党は予備選や党員集会を通じて党の指名候補を決める。ここでは、大統領選の予備選(党候補指名争い)を解説していく。本選挙の仕組みについてはこちらを参照

アメリカの政党はどのように党の大統領候補を指名するの?

有権者が関与するプロセスだが、直接的に大統領候補を選ぶわけではない。

党の大統領候補は、夏の党大会に出席する党大会代表者(delegates)が投票で指名する。党大会代表者は特定の大統領候補への支持を表明している人たちであり、各州ごとに実施される予備選や党員集会を通して投票者によって選ばれている。

簡単にいうと、大統領候補指名争いは党大会代表者獲得レースである。

何を以って大統領選の予備選の勝利となるの?

全党大会代表者のうち過半数が自分を支持している党大会代表者になれば党大会で大統領候補に指名されることが確実となるので、予備選を”勝利”したことになる。

もしどの候補も過半数を獲得できないと、予備選における勝者がいないまま、党大会での指名争いが迷走する可能性が出てくる。

党大会代表者は党大会での投票において、1回目だけは支持表明した候補への投票が義務付けられている。だが、1回目の投票でどの大統領候補も過半数を取れないと、投票は大統領候補の誰かが過半数を取れるまで続き、2回目以降の投票では党大会代表者はどの候補に投票してもよくなる。この状況はBrokered Convention(”割れた党大会”)と呼ばれ、指名争いは実質政治の駆け引きとなる。政治マニアとしてはたまらない出来事だが、現実にはあまり起こらない。

大統領候補は何人の党大会代表者を獲得すれば指名争いで勝利するの?

党大会に出席する党大会代表者の総数は党の裁量で決まるので、勝利に必要な過半数は大統領選の度に党ごとに異なる。

一般論として、共和党の場合は1000人超、民主党の場合は2000人前後の党大会代表者を獲得すれば勝利となる。

党大会代表者の獲得レースはどのように進むの?

党大会代表者は州の代表であり、各州の党大会代表者の数は州によって異なる。各州に何人党大会代表者が分配されるかは党の内規が定める方式で決まる。

各州に分配される党大会代表者は予備選や党員集会の結果によって大統領候補に割り当てられていくが、割り当ての方法は党および州によって異なる。

民主党の場合、どの州でも、党大会代表者は予備選・党員集会で得票率が15%を超えた候補の間で得票率に比例して割り当てられる。

共和党の場合、党大会代表者の割り当ての方法は州によって異なるが、代表的なのは以下となる。

  • 民主党と同様の方式〜一定の得票率(20%等)を超えた候補の間で、得票率に比例して割り当てられる
  • 勝者総取り方式〜得票数が最も多い候補にすべての党大会代表者が割り当てられる
  • ハイブリッド〜一定の得票率(50%等)を超えた候補がいれば、すべての党大会代表者が割り当てられる。そのような候補がいなければ、得票率に比例して割り当てられる

共和党は一部「勝者総取り方式」を採用しているため、民主党より早々に党大会代表者獲得レースの決着がつきやすい。

予備選・党員集会はいつ行われるの?

州によって異なり、大統領選ごとに順序が変わるが、概ね大統領選がある年の1月から6月の間に行われる。

慣習的に、指名プロセスは1月中旬にアメリカ中西部にあるアイオワ州(Iowa)の党員集会でスタートを切り、そこから、東北部にあるニューハンプシャー州(New Hampshire)の予備選、南部にあるサウスカロライナ州(South Carolina)の予備選と続く。なお、ニューハンプシャー州は、州の法律上、どの州より先に予備選を実施することが求められている。(最近はネバダ州もこの時期に党員集会・予備選を実施しているが、歴史が浅く、影響力も小さいので、あまり注目されない)

これら「初期の予備選」が終了すると、通常は、ミシガン州での予備選を経て、3月の上旬に多数の州が一斉に予備選・党員集会を実施する「スーパー・チューズデー(Super Tuesday)」と呼ばれる日が訪れる。大抵はこの日の結果で民主党・共和党双方の指名争いに決着がつく。

党員集会って何?

日本に馴染みのない制度であるが、党員集会は、学校体育館や地元市民館、教会や個人の自宅などに党員が集まり、各候補の推薦者によるスピーチを聞いた後に、党員が支持する候補に投票する制度である。

党員集会は極めて民主主義的なプロセスであるといわれている一方、単に投票所で投票するより長時間拘束されることから熱狂的な党員しか参加せず、投票率が低くなることがデメリットとされている。

予備選を実施するか党員集会を開催するかは党の判断になるので、共和党が党員集会を開催する州で民主党が予備選を実施することはあり得る。

なお、予備選は州が実施する選挙であるが、党員集会は政党が開催する党内イベントだ。

どの州の予備選に注目すればいいの?

予備選・党員集会は順次に実施されていくので、候補にとっては、初期の予備選で善戦して勢いをつけることが極めて重要になる。一般論として、アイオワ州、ニューハンプシャー州、サウスカロライナ州で不振だった候補はスーパー・チューズデー前に撤退し、善戦した候補は「本命」として勢いがつく。

これら3つの州がアメリカの大統領選に与える影響は計り知れず、3州全てを制覇した候補が党候補に指名されなかったことは史上一度もない。アメリカの人口3%しか占めないこの3州の有権者が全米を代表する大統領を絞る権限を有するのは如何なものか、という意見がある一方で、これら3州の人種構成や思想は大きく異なることから、アメリカ全国の良いバロメーターであるとも考えられる。

本選挙と違う予備選の見所とは?

本選挙で大統領を決めるのは「激戦州」の有権者だが、党の指名候補を決めるのはスーパー・チューズデーまでに予備選・党員集会が行われる州の有権者である。

たとえば、サウスカロライナ州は共和党の牙城なので本選挙では注目されないが、予備選では民主党の指名プロセスでも大きな役割を担い、2020年にアイオワ州とニューハンプシャー州で敗北したバイデン大統領はサウスカロライナ州で圧勝した勢いをスーパー・チューズデーでの地滑り的勝利につなげ本選挙でトランプ大統領相手に勝利を収めた

予備選・党員集会では誰が投票できるの?

州によって異なる。

アメリカ市民で18歳以上であれば、どの州でも原則として選挙権がある。ただ、選挙権の要件の詳細(前科持ちが投票できるか否か等)は各州が定める。

また、アメリカで投票するためには単に住民であるだけでは不十分で、有権者になるための登録を自ら行う必要がある(登録している有権者は「registered voter」と呼ばれる)。この登録の際、多くの州では政党の党員となることを選択することができ、党員になればその党の予備選や党員集会で投票できることになる。

党員にしか投票権が認められない予備選は「閉じた予備選(closed primary)」と呼ばれる。どの党にも登録していない有権者であればどれか1つの党の予備選に投票できる予備選は「開いた予備選(open primary)」と呼ばれる。

予備選が「閉じた予備選」であるか「開いた予備選」であるかは、州の法律によって決まっている場合もあれば、州の法律が政党の判断に委ねている場合もある。

また、党員の登録を行わない州もあるが、そういった州の予備選は必然的に「開いた予備選」になる。

「開いた予備選」が行われる州の中でも、特にニューハンプシャー州とミシガン州は、政党に登録していないいわゆる無党派の有権者が多く予備選に参加する州として知られている。これら州では、党員以外が予備選の結果を左右する、ということもあり得る。

投票時間は何時から何時まで?

党員集会の場合、開催時間が決まっているので、その時間内に参加する必要がある。

予備選の場合、投票時間は各州が定めるので、州によって異なる。また、フロリダ州のように、2つのタイム・ゾーンに跨っているため州内でも投票時間に1時間のずれが生じる場合もある。

投票方法は?

党員集会の場合は、開催場所で行う必要があり、無記名投票でないこともある。

予備選の場合、各州が定めるので、州によって異なる。たとえば、郵便投票しか認めていない州がある。

開票方法は?

各州が定めるので、州によって異なる。たとえば、郵送されてきた投票用紙を投票日前に集計することを認めている州もあれば、投票時間が終了するまで開票できないとしている州もある。

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