2025年、アメリカでは5つの連邦下院補欠選挙が行われた。ここでは、すべての補選で共和党が苦戦したこと、その理由がドナルド・トランプ大統領の不人気にあること、これら選挙の結果が来年の中間選挙での共和党の大敗を示唆していることなどについて解説していく。
なぜ連邦下院の補選が注目されるの?
アメリカでは奇数年には大統領選も中間選挙も行われないため、連邦下院の補選が唯一の国政選挙となる場合が多いためである。
ただし、補選は投票率が低く、投票するのは各党の熱心な支持者に偏りがちだ。そのため、補選の結果は必ずしも「現在の世論の縮図」とは言い切れない。
2025年の連邦下院の補選はどのような結果だったの?
5つの補選はいずれも各党の牙城で実施されたため、勝敗そのものは大きな意味を持たない。しかし、前年の下院選・大統領選と比較すると、いずれの選挙区でも共和党の得票率が悪化しており、同党が後退している様子が明確に読み取れる。
以下の表は、各選挙区における2025年の補選、2024年の下院選、2024年の大統領選での共和党と民主党の得票率の差を示している。共和党牙城の選挙区では共和党の勝利の差が大きく縮まり、民主党牙城の選挙区では民主党の勝利の差が大きく広がっているのがわかる。
| 補選日 | 選挙区 | 2025年の下院補選の結果 | 2024年の下院選の結果 | 同選挙区での2024年の大統領選の結果 |
| 4月1日 | フロリダ州第1区 | 共和党+15% | 共和党+32% | 共和党+37% |
| 4月1日 | フロリダ州第6区 | 共和党+14% | 共和党+33% | 共和党+30% |
| 9月9日 | バージニア州第11区 | 民主党+50% | 民主党+34% | 民主党+34% |
| 9月23日 | アリゾナ州第7区 | 民主党+40% | 民主党+27% | 民主党+22% |
| 12月2日 | テネシー州第7区 | 共和党+9% | 共和党+22% | 共和党+22% |
なんで共和党は補選で苦戦していると考えられるの?
背景には、トランプ大統領の支持率の低迷がある。
世論調査の平均の推移を追っているリアル・クリア・ポリティクス(Real Clear Politics)によると、直近のテネシー州第7区の補選が行われた12月2日時点で、トランプ大統領の支持率は42.4%、不支持率は54.9%だった。特にインフレ対策への評価が厳しく、不支持率が支持率を25%も上回っている。
民主党は今年の選挙でたびたび「Affordability(家計の負担能力)」をスローガンに挙げることで勝利を収めている。2024年の大統領選ではトランプが物価の値上がりを争点にしてジョウ・バイデン大統領を破ったが、今年はその物価批判がブーメランのようにトランプ大統領と共和党に戻ってきている。
過去の補選と比べて今年の共和党はどれほど苦戦してるの?
今年は大統領選と中間選挙の間の年であるが、こういった年に行われる最近の連邦下院の補選の結果を踏まえると、今年の共和党の苦戦はとりわけ深刻であると言える。
まず、直近の2021年から見ていく。当時の大統領は民主党のバイデンだったが、同党は自らの牙城で実施された補選で、前年の下院選より差を広げた。
| 選挙区 | 2021年の補選の結果 | 2020年の下院選の結果 |
| ルイジアナ州第5区* | 共和党+44% | 共和党+36% |
| ルイジアナ州第2区* | 民主党+64% | 民主党+54% |
| ニューメキシコ州第1区 | 民主党+25% | 民主党+16% |
| テキサス州第6区* | 共和党+25% | 共和党+9% |
| オハイオ州第11区 | 民主党+58% | 民主党+60% |
| オハイオ州第15区 | 共和党+17% | 共和党+27% |
(*本選で共和党・民主党の一騎打ちにならなかったので、全候補者が争った予備選における共和党と民主党の得票率の差を示している)
次に2017年を見てみる。当時の大統領は共和党のトランプで、補選は共和党の牙城で実施されたが、すべての選挙で前年の下院選より差が大きく縮まった。
| 選挙区 | 2017年の補選の結果 | 2016年の下院選の結果 |
| ジョージア州第6区 | 共和党+4% | 共和党+23% |
| カンザス州第4区 | 共和党+7% | 共和党+31% |
| モンタナ州選挙区 | 共和党+6% | 共和党+16% |
| サウスカロライナ州第5区 | 共和党+3% | 共和党+21% |
| ユタ州第3区 | 共和党+32% | 共和党+47% |
(カリフォルニア州第34区は共和党候補が出馬しないほどの民主党の牙城なので割愛)
次に2013年を見てみる。当時の大統領は民主党のバラク・オバマだったものの、1つを除き、補選における民主党の成績は前年の下院選より良かった。
| 選挙区 | 2013年の補選の結果 | 2012年の下院選の結果 |
| マサチューセッツ州第5区 | 民主党+34% | 民主党+51% |
| イリノイ州第2区 | 民主党+49% | 民主党+40% |
| サウスカロライナ州第1区 | 共和党+9% | 共和党+26% |
| ミズーリ州第8区 | 共和党+40% | 共和党+47% |
(アラバマ州第1区とルイジアナ州第5区は民主党候補が出馬しないほどの共和党の牙城なので割愛)
最後に2009年を見てみる。当時の大統領は民主党のオバマ。同党が共和党から議席を奪った補選が1つあったものの、民主党の牙城で前年の下院選から大きく差が縮まっていたのが注目に値する。
| 選挙区 | 2009年の補選の結果 | 2008年の下院選の結果 |
| ニューヨーク州第20区 | 民主党+0.5% | 民主党+24% |
| イリノイ州第5区 | 民主党+45% | 民主党+52% |
| カリフォルニア州第10区 | 民主党+10% | 民主党+34% |
| ニューヨーク州第23区 | 民主党+2% | 共和党+31% |
(カリフォルニア州第32区は共和党候補が出馬しないほどの民主党の牙城なので割愛)
今年の補選の結果は、来年の中間選挙がどのような結果になることを示唆しているの?
大統領への信任投票の位置付けとなる中間選挙は大統領の政党にとって逆風になる傾向が強く、前年の補選の結果にかかわらず、大統領の政党が連邦下院選で議席を減らす可能性が極めて高い。ただ、補選での結果はどれほど議席を減らすかのバロメーターになり得る。
大統領の政党が補選で善戦したと言える2013年と2021年の翌年の下院選では、同党は13議席と9議席しか減らしていない。一方で、大統領の政党が補選で苦戦したと言える2009年と2017年の翌年の下院選では、同党が62議席と43議席も減らした。
今年の共和党の補選での結果は2017年並みであることから、共和党は来年の中間選挙で大敗することが予測される。現在の連邦下院の構成は、共和党220議席、民主党213議席(欠員2)であり、共和党は4 議席減らすだけで過半数割れとなる。11月のニュージャージー州とバージニア州の知事選の結果も鑑みると、共和党が来年の下院選で過半数を失うのが濃厚だ。
補選を踏まえたトランプ政権への影響は?
トランプ大統領が共和党内で急激に求心力を失う可能性がある。
補選の結果は、来年改選を迎える共和党議員にとって大きな不安材料になる。トランプは次の大統領選に出馬できないことから、トランプに遠慮せず保身に走る議員が増えても不思議ではない。
最近では既に、エプスタイン・ファイル問題で共和党の連邦議員の一部がトランプ大統領に反旗を翻し、その後、トランプの熱狂的な支持者だったマージョリー・テイラー・グリーン連邦下院議員がトランプ大統領と袂を分つことになった。
これまでトランプ大統領の言いなりだった下院でトランプからの離反が加速すると、中間選挙を待たずしてトランプ政権の運営が厳しくなる。
補選の結果を踏まえた日本企業への影響は?
昨年11月の大統領選以降、政策の不確実性を避けるためにトランプ政権への対応を最優先にしてきた日本企業は少なくないが、今後は政権と議会、強いては共和党と民主党の双方を見据えた、よりバランスの取れた対米戦略が求められるだろう。
共和党は来年の中間選挙で過半数を失う可能性が高く、その場合トランプ大統領はレームダック化する。通商・規制政策の方向性が再び変化するリスクを踏まえれば、日本企業は今からポスト・トランプの政策環境を視野に入れた準備を進めることが重要である。