トランプ大統領による連邦準備制度理事解任の阻止〜トランプによる連邦公開市場委員会の完全的支配がかかってる?〜

トランプ大統領による連邦準備制度理事解任の阻止〜トランプによる連邦公開市場委員会の完全的支配がかかってる?〜

2025年9月9日(現地時間)、連邦第一審裁判所はドナルド・トランプ大統領による連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board、通称FRB)の理事であるリサ・クック(Lisa Cook)の解任を一時的に差し止めた。ここでは、金利の利下げを目指しているトランプがクックを解任した背景、クックの解任には正当な事由がないとした裁判所の判決内容、上告において連邦最高裁がクックの解任を認める可能性、そして金利を設定する連邦公開市場委員会のトランプによる支配がクックの解任にかかっている理由を解説していく。

簡潔にいうと、何が起こったの?

トランプ大統領は2期目就任以降、FRBに対して短期金利の引き下げを求めてきていたが、FRBは雇用統計が景気の好況を示していたこともあり、金利を維持し続けた。

それに反発したトランプは度々ジェローム・パウエル(Jerome Powell)FRB議長の解任を示唆したが、2025年8月25日(現地時間)、トランプはクック理事を「for cause(正当な事由)」で即時解任すると発表した。

クックは黒人として初めてFRB理事に就任した経済学者。2022年1月にジョウ・バイデン前大統領によって指名され、承認が必要である連邦上院での採決が50対50だったため、アメリカ連邦憲法に基づきカマラ・ハリス副大統領が決定票を投じて、クックは2022年5月23日に就任した。

トランプの解任発表を受けてクックは訴訟を起こし、連邦第一審裁判所は9月9日、トランプにはクックを解任する権限がないと判断した。

トランプはなぜクックを解任したの?

2025年8月15日(現地時間)、連邦住宅金融庁(FHFA)長官であるウィリアム・プルテ(Bill Pulte)は、クック理事が2021年に住宅ローン関係の書類において2つの異なる物件を「主たる居住地(primary residence)」と虚偽記載したことによって優遇金利で住宅ローンを取得した疑いがあると指摘した。FHFAはFRBとは無関係の機関であるが、プルテは連邦司法省に捜査を求めた。

トランプ大統領は8月25日、「虚偽的かつ犯罪行為にあたる可能性のある行為」を理由にクックを解任した。FRB理事が解任されたのは、連邦準備制度の100年の歴史の中で初めてである。

トランプは住宅ローン問題を解任の理由に挙げたが、本当の理由は、金利の利下げを実行させるため、FRBに親トランプ派を増やすことが狙いだと思われている。また、トランプはダイバーシティー政策に反対していることから、黒人であるクックが標的にされたと考えられている。

裁判所はなぜクックの解任を差し止めたの?

法律上、大統領はFRBの理事を自由に解任できない。

アメリカの行政の仕組み上、独立性が重視されているいわゆる行政執行機関については、大統領に任命権がありながらも、解任権は「for cause(正当な事由)」がある場合に限られている。トランプ大統領は2025年8月2日(現地時間)に労働統計局局長を解任しているが、FRB理事は大統領の任意で解任できない点で労働統計局局長と大きく異なる。

裁判所は判決の中で、FRB理事を解任できる「正当な事由」とは理事在職中の行為に限られるとし、トランプが挙げた住宅ローン問題は理事就任前の問題なので「正当な事由」に該当しないとした。また、クックが事前に解任事由に関する通知を受けず反論の機会も与えなかったことが、アメリカ連邦憲法上の適正手続の権利を侵害しているともされた。

トランプ政権はこの判決について即控訴すると思われる。

連邦最高裁はこの件についてどのように判断すると思われるの?

この訴訟は最終的に連邦最高裁に判断される可能性が高く、これまでの最高裁の判例を踏まえると、クックの解任は合法ではないと判断されるべきと思われる。だが、最近の最高裁の判決の傾向を踏まえると、これは確実ではない。

背景として重要なのは、1926年の連邦最高裁による判決以降、大統領は円滑に行政を運営できるよう、自身が任命した者を自由に解任できるとされていることである。よって、大統領による任命には連邦上院の承認が必要であるにもかかわらず、解任においては連邦議会が関与することが認められていない。

ただし、1935年の連邦最高裁による判決によって、この原則には1つ重要な例外がある。アメリカでは、立法や司法の役割を担うと考えられている行政機関は委員会により運営されており、このような機関の独立性を維持するため、大統領は正当な事由がない限り委員を解任できないと連邦法は定めている。この規定は大統領の解任権を制限しているが、独立性を担保するためならこれは認められると連邦最高裁は判断している。

もっとも、連邦最高裁は2020年の判決においてこの例外の対象範囲が極めて狭いことを示しており、1人の長官が率いる行政機関の場合、大統領の解任権は制限されてはならないとされている。

FRBは複数委員型の行政機関なので、大統領の解任権が制限されることは合憲であるはずだ。だが、最近の連邦最高裁は大統領の権限を強化させ、大統領の行政への支配を強める傾向にあるので、これが覆される可能性がある。

また、たとえ解任権の制限が合憲であっても、連邦最高裁は住宅ローン問題が「正当な事由」に該当すると判断する可能性がある。クックは住宅ローン問題で起訴さえされていないので、もしこれが正当事由と見なされれば、「正当な事由」の範囲は極めて広いこととなり、実質、大統領権限の拡大につながる。

クック解任が認められると、金利の行方はどうなるの?

金利を決定する連邦公開市場委員会(Federal Open Market Committee、通称FOMC)の次回の開催は9月16日〜17日であり、その時に利下げが実施されることはほぼ確実である。これは、直近で公表された雇用統計において雇用の伸びが下方修正されたことを踏まえれば妥当な判断であると考えられ、FOMCがトランプ大統領の政治的圧力に屈しているとは言えない。

他方、トランプによるクックの解任が認められれば、来年2月以降、FOMCの構成がトランプの思い通りになる可能性がある。

FOMCは、7人いるFRB理事に加えて、12人いる地区連邦準備銀行(地区連銀)の総裁(regional Fed president)のうち5人の、計12人で構成されている。現FRB理事のうち2人が既に親トランプ派であるとみられており、8月1日(現地時間)にFRB理事1人が辞任し後任はトランプが(上院の承認の下で)任命するため、親トランプ派は3人に増える。

さらに、来年の2月には地区連銀の総裁全員が任期満了を迎える。総裁の再任にはFRBの承認が必要なので、クックの解任が認められFRBの過半数が親トランプ派となると、地区連銀の総裁が全員親トランプ派になる可能性がある。

つまり、FOMCに対するトランプ大統領の影響力が完全なものになるか否かは、クック解任が認められるか否かにかかっているとも言える。

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