2026年11月に実施されるカリフォルニア州知事選では、民主党の有力候補だったエリック・スウォルウェル(Eric Swalwell)連邦下院議員が女性をめぐる疑惑で撤退に追い込まれ、その影響は複数の連邦下院議員の辞任連鎖につながった。ここでは、知事選の仕組みと情勢を整理した上で、スウォルウェルの撤退の背景と影響を説明する。その上で、なぜこの問題が連邦下院議員の辞任ドミノにつながったのか、さらに日本企業への影響について解説する。
まとめると、何が起こったのか
11月に実施されるカリフォルニア州知事選では、ギャビン・ニューサム(Gavin Newsom)知事が任期制限により再選を目指せないため、空席を争う選挙となっている。民主党・共和党双方から多数の候補が出ており、特に民主党側では有力候補が乱立する構図となっている。カリフォルニア州の選挙の制度上、民主党側での乱立は民主党の牙城である同州で共和党政権を誕生させるリスクをはらんでいる。
スウォルウェル連邦下院議員は民主党の有力候補の一人であったが、4月上旬、元スタッフを含む複数の女性に対する性的暴行や不適切行為に関する疑惑が主要メディアに報道された。その結果、スウォルウェルは数日以内に、知事選からの撤退だけでなく、議員辞職にも追い込まれた。
スウォルウェルの辞任を契機に、不祥事が問題となっていた他の連邦下院議員の辞任が続いた。共和党側では、女性スタッフとの不適切な関係が問題視されていたテキサス州選出のトニー・ゴンザレス(Tony Gonzales)が辞任し、民主党側では、政治資金をめぐって議会の調査を受けていたシーラ・シェルフィラス=マコーミック(Sheila Cherfilus-McCormick)が辞任した。
このように、カリフォルニア州知事選をめぐる動きは、国政にも急速に波及した。
知事選にはどのような背景があるのか
アメリカでは州ごとに選挙の仕組みが異なる。カリフォルニア州知事選を理解するうえで最も重要なのは、同州が採用している「トップ2方式(top-two primary)」である。この制度では、党派に関係なくすべての候補が単一の予備選に出馬し、その得票上位2名のみが本選挙に進む。したがって、本選挙では一般的に想定される「民主党対共和党」という構図ではなく、同一政党同士の対決になることも起こり得る。
今回の知事選では、この制度の特徴が特に強く表れている。カリフォルニアは全米でも最も民主党が強い州の一つであるが、その民主党側で有力候補が多数立候補し、支持が分散する構図となっていた。
具体的には、民主党側では、現職連邦下院議員だったスウォルウェルに加えて、元連邦保健福祉長官(United States Secretary of Health and Human Services)のザビエル・ベセラ(Xavier Becerra)、実業家で2020年の大統領選に出馬していたトム・ステイヤー(Tom Steyer)、元連邦下院議員のケイティ・ポーター(Katie Porter)などが有力候補として競り合っており、いずれも一定の支持を持ちながら横並びの状態にあった。
一方、共和党側では、保守系メディアで活動するスティーブ・ヒルトン(Steve Hilton)と、カリフォルニア州リバーサイド郡の保安官であるチャド・ビアンコ(Chad Bianco)に支持が集中していた。
この「民主党は分散、共和党は集約」という非対称な状態によって現実味を帯びていたのが、6月2日(現地時間)に実施される予備選で共和党候補が2人とも上位に入り、11月の本選挙は共和党候補同士の対決になるというシナリオである。この場合、州全体では民主党が圧倒的な強さを発揮しているにも関わらず、共和党知事が誕生することになる。
こうした状況の中で、スウォルウェルの離脱は知事選の行方を大きく変えるものとなった。スウォルウェルは大統領選に出馬した経験を持つことから知名度が高く、世論調査では民主党候補の間でトップに立っていた。スウォルウェルの撤退により、民主党内の票の再集約が進み、民主党候補が上位2名に入る可能性が高まった。
スウォルウェルはどのように撤退・辞任に追い込まれたのか
スウォルウェルの政治的崩壊はわずか3日間という、類を見ない速さで進行した。
発端は2026年4月10日(現地時間)、地元紙であるサンフランシスコ・クロニクルとケーブルテレビのニュースチャンネルCNNが、元スタッフを含む4人の女性がスウォルウェルによる性的暴行や不適切行為を訴えていると報じたことである。疑惑の中には、事実であればレイプに該当し得る疑いも含まれていた。
本人は疑惑を否定したものの、具体性のある報道は信憑性が高いと見做され、支持していた民主党議員が次々と距離を置き、スウォルウェルの支持基盤が急速に崩壊した。報道は金曜日に出たものの、影響は週末中に一気に拡大し、12日(現地時間)にスウォルウェルは知事選からの撤退に追い込まれた。
しかし、問題は選挙戦の離脱にとどまらず、連邦下院内では除名決議の動きが現実味を帯びた。除名には出席議員の2/3の賛成が必要であるが、共和党はほぼ全員が賛成に回ると見られ、民主党内でも相当数の造反が出る見込みだったため、スウォルウェルは除名投票を待たずして13日(現地時間)に議員辞職を表明した。
スウォルウェルの撤退後の知事選の見通しはどのようなものか
スウォルウェル撤退後の世論調査は限られているが、直近の調査によると、特にベセラが民主党内の支持を伸ばしている。この傾向が続けば、民主党の票はベセラとステイヤーに集約され、少なくとも1人の民主党候補がトップ2に進出する可能性が高まる。
もっとも、民主党内の候補乱立そのものが解消されたわけではなく、票の分散構造は依然として残っている。実際、同じ世論調査では、共和党のヒルトンが17%でリードしており、共和党のビアンコが14%、民主党のステイヤーが14%、民主党のベセラが10%、民主党のポーターが10%と続いている。23%がまだ投票先を決めていないため、6月に実施される予備選の行方は極めて流動的であると言える。
スウォルウェル問題は国政にどのように連鎖したのか
連邦下院では、不祥事を抱える他の議員も一掃しようとする動きが広がった。
除名された下院議員は史上6人しかおらず、除名決議自体が珍しい。だが、スウォルウェルのスキャンダルをきっかけに共和党・民主党双方の議員に対する除名決議の提出・検討が活発化し、スウォルウェルを含めた3人が8日間の間に辞任した。
まず、共和党のトニー・ゴンザレス議員が13日(現地時間)、スウォルウェルが辞任を表明した数分後に自身の辞任を表明した。ゴンザレスは以前から自死したスタッフとの不適切な関係が問題視されており、再選を目指していたにもかかわらず撤退に追い込まれていた。ただ、議員辞職にまで至っていなかった背景には、連邦下院で共和党が218対215議席の僅差で過半数を維持している状況があった。共和党にとってゴンザレス議員の1議席は重く、党の執行部は直ちに辞任を迫りにくかったが、スウォルウェルの辞任によってゴンザレスが辞任しても党勢力の構造に影響を及ぼさない状況となり、ゴンザレスは辞任した。
さらに21日(現地時間)、民主党のシーラ・シェルフィラス=マコーミック議員が辞任を表明した。シェルフィラス=マコーミックは政治資金をめぐって下院の倫理委員会による調査の対象となっており、共和党側が除名決議を提出するのが濃厚となっていた。
一方、共和党側では、フロリダ州選出のコーリー・ミルズ(Cory Mills)議員に対して圧力が高まっている。ミルズをめぐっては、選挙資金や女性への暴行に関する疑いが指摘されており、20日(現地時間)、共和党の女性議員がミルズに対する除名決議を提出した。現時点での連邦下院の構成は、シェルフィラス=マコーミック辞任の翌日に民主党所属議員が死去したため、共和党217議席・民主党212議席となっている。共和党の執行部にとって若干の余裕が生まれたため、ミルズが辞任に追い込まれる可能性が高まっている。
仮にミルズも辞任すれば、11月の中間選挙前に補選が集中するかもしれない。2025年から2026年にかけての補選で共和党は苦戦しているため、今回のスウォルウェル問題は、連邦議会の勢力バランスにも影響を及ぼし得る局面に発展している。
日本企業にとって今回の問題はどのような影響があるのか
スウォルウェル問題をめぐって日本企業にとって重要なのは、カリフォルニア州知事選の結果、共和党政権が誕生するシナリオが排除されていない点にある。
アメリカで事業を展開する日本企業にとって主要な拠点であるカリフォルニア州は、2011年以降民主党政権が継続しており、環境規制やデータ規制などを全米で最も積極的に主導してきた。仮にヒルトンのような共和党候補が知事選で勝利すれば、規制緩和などプラスとなり得る要素もある一方で、これまで民主党政権を前提に構築してきたコンプライアンスやESG対応が揺らぐことになる。さらに、人口最多のカリフォルニア州の動向はアメリカ全体の規制トレンドに影響を及ぼすため、カリフォルニア州で共和党政権が誕生することは、低確率ながら影響の大きいシナリオとして無視できない。
加えて、スウォルウェルを起点とする議員辞任の連鎖により、連邦下院では複数議席が空席となっている。11月の中間選挙前に補欠選挙が重なれば、選挙結果によっては僅差で運営される連邦下院のバランスが揺らぎ、政策決定の停滞につながり得る。結果として、日本企業にとっては、政策の予見可能性の低下がリスクとなり得る。