民主党の「51人目」になるのか〜ジョン・フェッターマン議員が中間選挙後の連邦上院で握る影響力〜

民主党の「51人目」になるのか〜ジョン・フェッターマン議員が中間選挙後の連邦上院で握る影響力〜

2026年9月9日(現地時間)、共和党の中間選挙大会に民主党のジョン・フェッターマン(John Fetterman)連邦上院議員が映像で登場した。民主党の現職連邦上院議員が共和党大会に出演するだけでも異例だが、今回の出来事がとりわけ注目された背景には、11月の中間選挙後に民主党が51対49で上院多数派を奪還する可能性が現実味を増していることがある。その51議席の中で、民主党との亀裂が深まりつつあるフェッターマンが多数派維持に不可欠な「51人目」となれば、中間選挙後の上院民主党の対応、ひいてはトランプ政権の人事や予算などに大きな影響を及ぼす可能性がある。本稿では、なぜ「51人目」が極めて重要なのかを確認したうえで、フェッターマンの経歴と民主党との距離、そして中間選挙後の影響力を見ていく。

なぜ「51人目」が重要なのか

11月の中間選挙では、連邦下院の全435議席と連邦上院の35議席(補欠選挙を含む)が改選される。連邦上院は各州から2人ずつ選出される100議席で構成されており、2年ごとに約3分の1の議席が改選される。

連邦上院における現在の勢力図は、共和党53議席・民主党47議席(民主党系無所属2人を含む)である。連邦上院では、賛否が50対50に分かれた場合に副大統領が決定票を投じるため、民主党が多数派を奪還するには、現在の議席数から少なくとも4議席を積み上げなければならない。

4議席を純増できる可能性は当初低いと思われていたが、ここ数カ月で高まっている。ノースカロライナ州(North Carolina)では民主党が優勢となり、メイン州(Maine)テキサス州(Texas)オハイオ州(Ohio)アラスカ州(Alaska)などでも共和党が持つ議席を奪えるだけの競争力を示している。

民主党が最低限必要な51議席で連邦上院を奪還することは現実的な選挙結果の1つになりつつあるが、そうなった場合、「51人目」として最も注目されるのがフェッターマンである。連邦上院の構成が民主党51対共和党49になると、フェッターマン1人の動向が重要な採決を左右するだけでなく、(本人は否定しているものの)仮に民主党会派を離れるようなことがあれば、多数派そのものを左右することになる。

フェッターマンとはどういう人物なのか

フェッターマンは、ペンシルベニア州(Pennsylvania)西部の旧工業都市ブラドック市(Braddock)で市長を務め、2018年の副知事選に当選した。パーカーや短パン姿をトレードマークとし、労働者階級の有権者にも訴える民主党政治家として知名度を高めた。

2022年の連邦上院選挙に立候補すると、フェッターマンは最低賃金引き上げや労働組合の支援などを掲げ、トランプ大統領の台頭により民主党が支持を失ってきた白人労働者層にも訴えることのできる候補として評価された。本選挙で対決した共和党候補はテレビ番組の司会者として高い知名度を持っていたため、ペンシルベニア州の連邦上院選は全米から注目を集めた。

フェッターマンは選挙戦の途中に脳卒中を起こしたが、最終的には共和党が保持していた議席を奪い返した。5%差での勝利は、両党が拮抗するペンシルベニア州としては比較的大きな差だったといえ、フェッターマンは民主党にとって重要な存在としてワシントン入りした。

どのようにフェッターマンと民主党の距離は広がっていったのか

フェッターマンと民主党との距離が明確になったのが、イスラエルをめぐる姿勢である。2023年10月のハマスによる攻撃後、イスラエルによるガザ地区への軍事作戦が広がると、民主党内や支持者の間でイスラエルへの批判が強まった。だが、フェッターマンはイスラエルを一貫して強く支持し、強硬な親イスラエル派として知られるマイク・ハッカビー(Mike Huckabee)の駐イスラエル大使への指名について、民主党所属の連邦上院議員として唯一承認に賛成した。2026年7月には、民主党が反イスラエルの政党になるのであれば離党するとまで発言している

フェッターマンはトランプ政権の人事においても、民主党と異なる票を投じていることが目立つ。連邦国土安全保障長官クリスティ・ノーム(United States Secretary of Homeland Security Kristi Noem)の承認に賛成し、ノームが更迭されると、後任に指名された共和党連邦上院議員マークウェイン・マリン(Markwayne Mullin)の承認にも賛成した。さらに、連邦司法長官パム・ボンディ(United States Attorney General Pam Bondi)の承認においては民主党上院議員として唯一賛成票を投じた。

フェッターマンは政策でもトランプ政権と同調する姿勢を示している。2025年には、不法入国者が一定の犯罪で逮捕・起訴された場合に連邦当局による拘束を義務付ける法律を共和党と共同提案した。また、2025年10月に連邦上院の民主党が暫定予算に反対したことで始まった政府閉鎖をめぐって、民主党執行部を批判する発言を繰り返した。

もっとも、フェッターマンは基本的には民主党の政策を支持している。トランプ政権と共和党が成立させた大型減税・歳出法案には反対し、妊娠中絶の権利やLGBTの権利などでも、民主党が支持する立場を維持している。実際、フェッターマンは上院での記名投票の88%で、民主党会派と同じ票を投じている

なぜフェッターマンは上院議員としての職務遂行の面でも批判されているのか

フェッターマンは、連邦上院議員としての仕事そのものに十分取り組んでいるのかという疑問でも注目を集めている。

2025年には地元紙であるフィラデルフィア・インクワイアラー(The Philadelphia Inquirer)が、フェッターマンは会合を頻繁にキャンセルし、政策への関心が低く、州内での活動や有権者との接触が少ないと複数の元スタッフや関係者が証言していると報じた

さらに2026年9月には、ウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)が、フェッターマンとスタッフの間のテキストメッセージなどをもとに、上院議員としての職務への関わり方に疑問を投げかける複数の事例を報じた

例えば、3人の退役軍人がペンシルベニア州から車椅子でワシントンを訪れ、医療改善のための法案について面会を希望していた際、フェッターマンは体調不良を理由に直前にキャンセルしながら、1時間もしないうちに保守系テレビ局のFOXニュースのインタビューを受けていた。

また、フィラデルフィア小児病院との面会について、フェッターマンはスタッフに「なぜ何度もこの病院と会わなければならないのか」とのメッセージを送り、病院関係者が面会を求めるのはワシントンへの無料旅行が目的なのではないかと疑うメッセージも送った。

さらに、職務中に殺害された3人の警察官の合同葬儀への出席をめぐって、スタッフから式典は少なくとも3時間続くと説明されると、「3時間も??それは論外かもしれない(”3 hours?? … This may be a nonstarter”)」と返信し、実際葬儀には出席しなかった。

中間選挙後、民主党が連邦上院で51議席を獲得したら、フェッターマンは何を左右できるのか

民主党が51対49で連邦上院の多数派を奪還した場合、フェッターマンは特に大統領による人事の承認や予算で大きな影響力を持つことになる。

連邦上院にはフィリバスター制度があるため、通常、法案の可決には過半数では足りず、60票が必要となる。だが、大統領が指名した閣僚や連邦裁判官などについては、本会議での最終的な承認に原則として単純過半数しか必要とされない。民主党が51議席を握れば委員会でも民主党が主導権を持つが、委員会を通過して本会議に送られた人事では、共和党49人にフェッターマンが加われば50対50となり、ヴァンス副大統領が決定票を投じることができる。また、歳入・歳出などに関する法案であれば予算調整(budget reconciliation)という特別な手続を利用して単純過半数で可決できるため、重要な予算関連法案でもフェッターマンが決定的な一票を握る可能性が生じる。

このように民主党執行部はフェッターマンの動きを意識せざるを得なくなり、「51人目」という立場自体が大きな交渉力になり得る。

フェッターマンの立場はどのようにバイデン政権下の連邦上院を思い出させるのか

こうしたフェッターマンの立場は、ジョウ・バイデン政権前半のジョウ・マンチン議員(Joe Manchin)とキルステン・シネマ議員(Kyrsten Sinema)を思い起こさせる。マンチンは共和党の牙城であるウエストバージニア州(West Virginia)から選出されており、シネマは共和党と民主党の双方が競争力を有するアリゾナ州(Arizona)から選出されていた。

当時の連邦上院は民主党系50議席、共和党50議席で、民主党は副大統領の決定票によってかろうじて多数派を維持していた。そのため、マンチンかシネマのどちらか一人でも反対すれば、共和党の議員が造反しない限り、法案を可決したり、人事を承認したりすることができなかった。

2人はその立場を利用してバイデン政権の政策に大きな影響を与えた。マンチンの反対によって大規模な社会保障・気候変動対策法案「ビルド・バック・ベター(Build Back Better)」は当初の形で成立せず、その後、規模や内容を大幅に縮小したインフレ抑制法(Inflation Reduction Act)として成立した。また、シネマの要求によって、同法から投資ファンドに対する増税の条項が削除された。

このように、2人の影響力は実際に反対票を投じた場面に限られなかった。民主党執行部は法案を成立させるために、最初からマンチンとシネマが受け入れられる内容を探る必要があり、2人との交渉によって法案の内容そのものが変わった。

もっとも、たとえ2026年11月の中間選挙後に連邦上院民主党が51議席を獲得しても、フェッターマンの影響力はバイデン政権時代のマンチンやシネマとは現れ方が異なる。当時は民主党大統領の政策を同じ民主党の上院議員が止める構図だったが、2027年以降は、民主党が多数派を握る連邦上院によるトランプ政権へのブレーキが、フェッターマンの1票によって弱められる可能性が生じる。マンチンやシネマとフェッターマンに共通するのは、僅差の連邦上院において、1人の議員に通常以上の交渉力が集中するという点である。

フェッターマンはなぜ日本から見ても無関係ではないのか

フェッターマンは、日本製鉄によるUSスチール買収が発表された2023年12月、地元雇用やアメリカの鉄鋼産業を守る立場から買収に強く反対し、阻止するためにできることはすべてすると表明した。その後、買収はトランプ政権の下で条件付きで承認され、日本製鉄は2025年にUSスチールの買収を完了したが、フェッターマンは2026年9月に共和党大会で流された映像を、かつて市長を務めたブラドック市にあるUSスチールの製鉄所を背景に撮影していた。フェッターマンがUSスチールとその従業員を重視していることをうかがわせる政治的メッセージである。

もし2026年の中間選挙で民主党が連邦上院を奪還すれば、トランプ政権に対する連邦議会の監視や人事、予算をめぐる力関係も大きく変わる。その多数派の「51人目」がフェッターマンとなれば、民主党がトランプ政権の政策にどこまでブレーキをかけられるかを左右する存在となり得る。トランプ政権の政策は日米関係や通商、安全保障にも直接影響するだけに、日本から見てもフェッターマンの動向は無関係ではない。

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