2026年の中間選挙を前に、共和党候補者の間でドナルド・トランプ大統領と距離を置く動きが広がっている。一方、トランプ自身は共和党支持者の多い地域を中心に集会を開き、「自分が投票用紙に載っていると思って投票してほしい」と呼びかけている。トランプには共和党支持者を動員する力があるが、その存在は民主党支持者の投票意欲も刺激しかねない。こうした共和党候補者とトランプの選挙戦略の食い違いから、2026年中間選挙で共和党が直面しているジレンマを解説していく。
共和党候補者の間で「トランプ隠し」はどこまで広がっているのか
フロリダ州(Florida)では、現職連邦下院議員であるマリア・エルビラ・サラザール(Maria Elvira Salazar)が、ホワイトハウスの前からトランプに直接語りかける選挙広告を公開した。サラザールはトランプ政権の移民取り締まりについて「行き過ぎた部分がある」と批判し、2024年の大統領選でトランプをホワイトハウスに送り返したヒスパニック系有権者が、いまや裏切られたと感じていると警告した。サラザールの選挙区はマイアミ市周辺にあり、住民のおよそ75%をヒスパニック系が占める。サラザールがトランプ政権の看板政策である移民取り締まりに異議を唱え、それを自らの選挙広告の中心に据えたことは注目された。
ミシガン州(Michigan)では、連邦上院選の共和党候補であるマイク・ロジャース(Mike Rogers)元連邦下院議員が、バーでカナダ産のラバット・ブルー(Labatt Blue)ビールを手に「ミシガンは、カナダが敵ではないことを分かっている」と語り、カナダとの関税紛争を今すぐ終わらせる必要があると訴える広告を公開した。ロジャースは9月にはカナダに対するトランプ関税を「必要」と評価していただけに、この広告は方針転換とみなされた。
トランプ大統領と距離を置く動きは一部の共和党候補者に限らない。ロイター通信が行った調査によると、接戦が予想される連邦上院選・下院選62選挙戦のうち、約3分の2にあたる41選挙戦で、共和党候補者がトランプの政策に異を唱えるか、トランプとの関係を目立たなくする行動が確認された。このうち23選挙戦では具体的な政策上の違いが見られ、12人の候補者は選挙運動のサイトからトランプの名前や写真、支持表明などを削除していた。
忠誠心を重視するトランプは過去の大統領とどう異なるのか
与党の候補者が支持率の低下した大統領から距離を置くことは、アメリカの中間選挙では珍しくない。2006年の中間選挙の際、ジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)大統領は、共和党候補者が自分と一緒に選挙運動をすることを避けたがっていることについて、「気を悪くすることはない」と発言した。2014年には、バラク・オバマ(Barack Obama)大統領も自分が人気のない州では選挙応援に呼ばれなくても気にしないと伝えている。
だが、トランプは共和党候補者の忠誠心に強くこだわる。たとえば、トランプ大統領はサラザールの広告に反発し、SNSで彼女を批判する投稿を十数件掲載し、その中には「サラザールを別の共和党候補に替えるべきだ」という主張も含まれていた。
トランプが選挙での勝利に不利になる可能性があっても忠誠心を重視する姿勢は、特にテキサス州(Texas)の連邦上院共和党予備選で見られた。現職のジョン・コーニン(John Cornyn)が再選を目指す中、トランプは数々の不祥事を抱えるケン・パクストン(Ken Paxton)州司法長官を支持し、その理由として、コーニンが2024年大統領選でトランプへの支持を表明するのが遅かったことを挙げた。トランプの支持を取り付けたパクストンは5月26日の決選投票でコーニンを大差で破ったが、その結果、30年間も共和党が守ってきたテキサス州の連邦上院議席が民主党の格好の標的となっている。
共和党の候補者にとって、共和党支持者が中心となる予備選を勝ち抜くにはトランプ支持者の支持が欠かせないが、民主党支持者や無党派層も投票する本選挙では、より幅広い有権者に訴える必要がある。しかし、候補者が本選挙での勝利を目指してトランプと距離を置こうとすれば、トランプ自身の反発を招く可能性がある。共和党支持者の間でなお強い影響力を持つトランプを敵に回すことは、候補者にとって共和党の支持基盤を失う危険性を伴う。
トランプはどのような地域を遊説先に選んでいるのか
接戦を戦う共和党候補者がトランプと距離を置く一方、トランプ自身は共和党の地盤を中心に遊説している。10月に入ってからの訪問先にも、2024年大統領選でトランプが大きく差をつけて勝利した州が目立つ。
| 州 | 2024年大統領選のトランプ得票率 |
|---|---|
| オクラホマ州(Oklahoma) | 66% |
| アラバマ州(Alabama) | 65% |
| テネシー州(Tennessee) | 64% |
| ネブラスカ州(Nebraska) | 59% |
| モンタナ州(Montana) | 58% |
| テキサス州(Texas) | 56% |
| オハイオ州(Ohio) | 55% |
| アラスカ州(Alaska) | 55% |
このうち、テキサス州、アラスカ州、ネブラスカ州では連邦上院選が接戦となっており、モンタナ州でも連邦下院選の争いが激しくなっている。一方、テネシー州やオクラホマ州には連邦議会選挙の目立った接戦はない。トランプは、なぜ接戦のない共和党優勢地域を訪問するのかという疑問に対し、長年自分を支持してきた人々に感謝と敬意を示すためだと語った。
一方、共和党の地盤が弱い州で接戦を戦う共和党候補者の中には、トランプの選挙応援を望まない候補者もいる。2024年の大統領選で民主党のカマラ・ハリス(Kamala Harris)副大統領が勝利したメイン州(Maine)では共和党の現職スーザン・コリンズ(Susan Collins)が再選を目指しているが、コリンズは討論会でトランプ大統領の訪問が歓迎されていないことを示唆した。同じくハリスが勝利したニューハンプシャー州(New Hampshire)では、共和党のジョン・スヌヌ(John Sununu)元連邦上院議員が民主党の議席を狙っているが、スヌヌはトランプ大統領に訪問してほしくないと明言している。
トランプの選挙応援は共和党と民主党にどのような影響を及ぼすのか
トランプは各地で、「自分が投票用紙に載っていると思って投票してほしい」と繰り返している。その背景には、2024年に自分を支持した有権者を、今回の中間選挙でも共和党候補者への投票につなげるという課題がある。最近の世論調査では、2024年にトランプに投票した有権者の77%が今回の連邦下院選で共和党候補を支持すると回答したのに対し、ハリスに投票した有権者では87%が民主党候補を支持していた。トランプ個人への支持が、共和党候補者への支持に必ずしも直結していないことがうかがえる。
一方、トランプの存在は民主党支持者にとっても強い投票動機となっている。同じ調査では、有権者の44%が今回の連邦議会選挙での投票をトランプへの「反対票」と考えており、民主党の連邦下院候補を支持する有権者では84%がトランプへの反対票と考えていた。また、投票への意欲が「極めて高い」と答えた割合も、民主党候補の支持者が63%、共和党候補の支持者が46%と差が開いている。民主党側では、トランプへの反発が選挙への関心を高めていることが分かる。
トランプの選挙応援は、共和党にとって諸刃の剣になり得る。トランプ大統領の支持率が低迷する中、無党派層の支持を得ることが難しい共和党候補者ほど、トランプの熱心な支持者の票に頼る必要が高まっている。一方、トランプの訪問はトランプ政権に反発する民主党支持者の投票意欲も刺激しかねない。トランプが共和党支持者の多い地域を中心に遊説している背景には、自らの支持基盤を盛り上げながら、民主党支持者の反発による選挙上の不利益を抑える狙いもあると考えられる。
共和党候補者がトランプと距離を置こうとしても、民主党は両者を結びつける広告を全国的に展開している。共和党候補者がいくらトランプから独立した立場をアピールしようとしても、民主党はそれを許さない戦略を採用している。