2025年11月21日(現地時間)、マージョリー・テイラー・グリーン(Marjorie Taylor Greene)連邦下院議員が2026年1月5日付で辞職する意向を示した。ここでは、なぜ435人の1人に過ぎない下院議員の辞任表明が全国的に注目されているのか、なぜ彼女は当初から熱狂的に支持していたドナルド・トランプ大統領と決裂したのか、そして彼女の辞任がもたらす議会運営・トランプ政権・日本企業への影響などについて解説していく。
グリーンはどのような政治家なの?
グリーンはジョージア州生まれで、大学卒業後は父親の建設会社を経営し、その後フィットネスジムを設立した。
2020年、グリーンは連邦下院選挙に出馬することを表明。共和党がトランプの政策を十分実現しなかったことを理由に出馬を決め、トランプ大統領への支持姿勢と党執行部への不満も示した。
この年はトランプ大統領がジョウ・バイデンに負けて再選できなかった年であるが、グリーンの選挙区は共和党の牙城だったことから、本選挙で民主党候補に圧勝した。それに先立って行われた共和党の予備選では、トランプ支持を明示していた神経外科医に完勝していた。
その後、2022年、2024年の選挙で圧勝し、現在3期目中である。
グリーンの政治スタイルは極めて闘争的であり、強硬的なトランプ支持の姿勢と陰謀論支持を鮮明に打ち出す「炎上型」のポピュリストとして知られる。
グリーンのどのような発言や行為が物議を醸したの?
初当選した2020年の選挙前から、グリーンは極めて過激な発言や行為を繰り返していた。
- 2001年9月11日にイスラム過激派テロ組織アルカーイダが行ったアメリカ同時多発テロ事件について、アメリカ連邦政府が関与していた可能性を示唆した
- 2018年のパークランド高校銃乱射事件について、銃所持の権利を剥奪するためのでっちあげだったとし、連邦議会に銃規制の強化を働きかけた生存者と対峙した
- 2018年に当選したイスラム教徒の連邦下院議員2人について、議員であるべきではないと主張した
- 民主党のナンシー・ペロシ(Nancy Pelosi)連邦下院議長に対して暴力を促すSNS投稿に「いいね」を押した
当選後も、コロナ対策のマスク着用義務やワクチン接種義務について、ナチスドイツによるユダヤ人の虐殺だったホロコーストと比較するなど、物議を醸す行動を続けた。
グリーンは議員の間でどのように見られているの?
グリーンが初当選した2020年11月の直後から、彼女のそれまでの言動は広く知れ渡るようになり、連邦下院は懲罰的措置を取った。グリーンは2021年1月に議員就任した際に2つの委員会に所属したが、翌月、連邦下院は賛成多数で彼女をすべての委員会の役職から外した。当時、連邦下院は民主党が過半数を握っていたためグリーンが処罰されるのは確実だったが、共和党側からも11人が賛成に回った。
2022年の中間選挙の結果、共和党が連邦下院で過半数を獲得して以降、グリーンは下院監視・政府改革委員会(House Committee on Oversight and Government Reform)と下院国土安全保障委員会(House Committee on Homeland Security)に所属している。どちらも、彼女が除籍された委員会より権威のある委員会である。
ただ、グリーンは共和党議員の間で評判が高いとは言えない。
たとえば、2024年3月、グリーンはマイク・ジョンソン連邦下院議長の予算をめぐった対応に不満を示し、彼を解任するための決議を提出した。ジョンソンは、2023年10月に共和党議員8人が造反したことで当時議長だったケヴィン・マッカーシが解任されたのち、党が3週間も迷走した後にやっと選ばれた後任である。半年後に再度議長を解任する案を提出したグリーンに対し、共和党内からもやじが飛んだ。
グリーンはトランプ支持者の間でどれほどの人気・影響力があるの?
グリーンの扇動的な言動は共和党連邦議員の間では非難されがちだが、トランプ支持者・共和党基盤では支持されている。
それを何より示しているのが、彼女の選挙資金調達である。2020年の最初の選挙では140万ドル(約2.2億円)もの自己資金を投入する必要があったが、その後選挙資金調達能力は上昇し、2022年の選挙では1250万ドル(約20億円)、2024年の選挙では900万ドル(約14億円)の選挙資金を調達できており、来年11月の選挙に向けてすでに200万ドル(約3億円)集めていた。
グリーンの知名度は共和党支持者に限らない。2023年には、アメリカCBSテレビが制作するドキュメンタリーテレビ番組「60ミニッツ」がグリーンの人物プロフィールを組んだ。連邦下院議員、ましてや(当時)まだ2期目の議員が全国的に取り上げられるのは異例で、このインタビューは彼女が全国的な「有名人政治家」であることを象徴していた。
グリーンがトランプ大統領と決裂したのはなぜ?
当選当初からトランプを支持していたグリーンだが、この1年間で政策上の対立が生まれ、直近ではエプスタイン・ファイルを巡って決裂した。
最初に溝が生まれたのは、2025年6月。トランプ政権がイランの核施設に対して空爆を実施した際、グリーンは、アメリカが莫大な借金を抱える中で、こうした軍事行動はアメリカ国民に利益をもたらさないと異論を唱えた。さらには、外国介入はトランプの主張の根本にある「アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)」を裏切るものだと主張した。
こうした政策面での不一致は、2025年10月に始まったアメリカ連邦政府の閉鎖でさらに顕在化した。政府閉鎖は民主党が健康保険料補助金の復活を求めたことで起こったが、グリーンは健康保険料の急上昇に関して共和党が何もしないことを批判し、民主党の主張に理解を示した。トランプ大統領は民主党の要求を拒否し続け、結局、政府閉鎖は民主党が要求を撤回することで終結した。
ただ、グリーンとトランプ大統領の決裂を決定的にしたのは、エプスタイン・ファイル問題を巡ってである。未成年の少女を性的に搾取していたジェフリー・エプスタインの被害者の話を聞いたことがあるグリーンは、エプスタイン・ファイルの公開を強く求め、エプスタイン・ファイルの公開を連邦司法省に要求する法律が成立されるよう、他3人の共和党議員と共に共和党執行部とトランプ大統領に反旗を翻した。
トランプ大統領の意向に反して、連邦下院本会議でのエプスタイン・ファイル公開法案の審議入りが確実になった11月14日(現地時間)、トランプ大統領はついにグリーンへの支持を撤回した。
グリーンはなぜ辞任することになったの?
直接的な理由は、トランプの支持を失ったことだと考えられている。
11月16日(現地時間)、グリーンはケーブルテレビCNNのインタビューに応じ、トランプ大統領に「裏切り者 (traitor)」と呼ばれたことに最も傷ついたと発言し、殺害の脅迫を受けているとも述べた。また、自身の過去の激しい発言について反省し、今後はより穏健なアプローチを取る意向を示した。
21日の辞任声明の中では、自分や家族に対する脅迫を辞職の理由と挙げている。また、このまま2026年の選挙で再選を目指せば、予備選でトランプの推薦を得た候補と激しく戦うことになり、共和党が分裂してしまうことへの懸念を示した。
ただ、共和党執行部に対しての不満も述べた。グリーンは、共和党が連邦上下両院を支配しているのに議会は何も成果を上げていないと批判し、彼女が提出した法案がジョンソン議長の拒否により審議されないことを非難した。
グリーンの辞任によるトランプ政権への影響は?
グリーンの辞任は、共和党が支配する議会の運営を一層困難にし、今後のトランプ政権の雲行きを危うくする可能性がある。
グリーンは、2026年1月5日付(現地時間)で辞任する予定である。現在の連邦下院は、共和党219議席、民主党213議席、欠員3議席の構成だ。今年1月の議長選びやエプスタイン問題で明らかになった通り、共和党内には常に分裂の火種があり、3人以上が造反すると過半数を失う。来週、共和党牙城である選挙区で補選が実施され共和党は1議席回復できる見込みだが、1ヶ月後、グリーンの辞任によってまた1議席減る。ジョンソン議長の議会運営は厳しいままとなる。
トランプ大統領にも影響がないとは言えない。トランプは、エプスタイン問題で共和党議員の反乱を許した直後、自分に背いたグリーンを追放したことで力を示せた。だが、グリーンはそもそも熱狂的なトランプ支持者であり、「アメリカ・ファースト」の主張を展開していたトランプ並みのポピュリストである。イラン攻撃もエプスタイン問題もトランプよりグリーンの方がトランプ支持者の思想に近いと考えられ、来年の中間選挙に向けて支持者が離反し始めても不思議ではない。
グリーンの辞任は日本や日本企業にどのような影響を及ぼすの?
日本ではほぼ無名のグリーンだが、彼女の辞任でアメリカの政界には激震が走っており、中期的には日本企業にも間接的な影響をもたらす可能性がある。
まず、グリーンの辞任で共和党の議席運営が難しくなり得る。10月1日に始まった2025年度の予算は未だ成立しておらず、中間選挙が近づくにつれて、特に税制に関する法案の見通しが不透明化するかもしれない。
また、グリーン辞任がトランプ政権からポピュリスト層が離れつつある兆候であるなら、トランプ大統領の支持率が下落し続けるであろう。すると、選挙の心配をしなければならない共和党議員の離反が増え、トランプ政権の支持基盤が大きく揺らぐことになる。
結果、日本企業にとって、アメリカ政界の予測可能性が低下する可能性が高まる。