2024年11月の選挙では共和党が連邦上院議院と連邦下院議院で過半数を獲得したことから、少なくとも2026年の中間選挙まではドナルド・トランプ次期大統領は円滑な政権運営ができると考えられている。ここでは、必ずしもそうはいかない可能性について解説していく。
背景にはどのようなことがあるの?
アメリカで法案を成立させるためには、原則として、連邦上院議院と連邦下院議院が法律を可決し、大統領が署名(承認)する必要がある。また、(総理大臣が任意に閣僚を任命できる日本と異なり)アメリカの閣僚は大統領が指名しつつも連邦上院が承認する必要がある。
先の選挙では、435人の連邦下院議員全員と100人の連邦上院議員のうち33人が改選を迎え、結果、共和党は連邦下院で220議席、連邦上院で(非改選議員と合わせて)53議席獲得した。(民主党及び民主系無所属は下院215議席と上院47議席)
共和党が両院で過半数を超えたので国会を必要とする法案成立等もトランプの思いのままになりそうに見えるが、必ずしもそうではない理由を1つずつ見ていく。
トランプの閣僚指名が思いのままになってないのはなぜ?
1月に新上院議員が就任した後、連邦上院による承認が必要だからだ。
共和党はこの8年間でだいぶ”トランプ化”されたことから、共和党所属の連邦上院議員はトランプのいいなりになると思われていたが、今のところそうなっていない。
たとえば、司法長官に指名されたマット・ゲイツ(Matt Gaetz)前連邦下院議員は上院での承認が絶望的となり、指名発表のたった8日後に自分から指名を辞退した。未成年との性行為や性的人身売買といった疑惑もあったが、最大の理由は、昨年、自党の下院議長を解任するという大騒動を引き起こしたことで党内で反感を買ったことだろう。
ゲイツ以外にも次の3人の指名が物議を醸しており、上院の承認を得られるかが注目されている。
- 国防長官に指名されたピート・ヘグセス(Pete Hegseth)〜テレビキャスターだったヘグセスは軍人としての経験はあるものの大規模組織のリーダーを務めたことがないことから適任性が問われており、女性への性的暴行の疑惑も挙がっている
- 国家情報長官に指名されたトゥルシー・ギャバード(Tulsi Gabbard)〜元民主党連邦下院議員でありながらトランプの副大統領候補として噂されていたギャバードは、過去にシリアのバシャール・アサド前大統領やロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対する好意的な発言(および同盟国日本への批判的な発言)を行なっており、国家情報長官としての適任性が問われている
- 保健福祉長官に指名されたロバート・F・ケネディ二世(Robert F. Kennedy, Jr.)〜大統領選で無所属候補として出馬しその後撤退してトランプを推薦したケネディは、過去にワクチン反対の姿勢を示しており、保健福祉長官としての適任性が問われている
特にヘグセスは、(この数日間鎮火しつつあるものの)指名発表以降批判の的となっており、上院での承認が見通せてない。
連邦上院はなぜトランプの思いのままにならないかもしれないの?
連邦上院には1人の議員が審議の進行を止めることができるフィリバスター(filibuster)があるためだ。フィリバスターを終了させるためには60人の賛成が必要であり、共和党の議席数はこれに遠く及ばない。よって、民主党の議員が1人でもフィリバスターを始めれば、どのような法案でも審議は停滞してしまう。
上院はもともと独立性を重視する議院である。100人しかいなくそれぞれフィリバスターする権限を有しているので、議員一人一人が独立性を発揮しやすいのだ。
先月、共和党所属の上院議員が党の院内トップとなる院内総務(majority leader)を投票で決めた際、トランプ寄りだったリック・スコット(Rick Scott)がベテランのジョン・スーン(John Thune)に完敗した。この結果は上院がトランプの言いなりにならないことを示唆しており、それが閣僚の承認関連で既に現れている。
連邦下院はなぜトランプの思いのままにならないかもしれないの?
共和党が保有している議席数がぎりぎり過半数だからだ。
連邦下院での過半数は218議席で、先の選挙で共和党が獲得したのは220議席。トランプが大統領選で完勝したわりには、(上院選と同様に)下院選で共和党の議席が伸びなかった。さらに、司法長官に指名されていたゲイツは、再選したものの就任を辞退すると表明しており、1月から始まる国会における共和党の議席数は219議席となる。
よって、共和党は表決における造反者を1人に留める必要があり、党議拘束がないアメリカではこれは保証されていない。
さらに、近年の共和党所属の連邦下院議員は秩序を失っており、昨年10月には自党の下院議長を解任するという前代未聞の反乱があった。新議長就任後も共和党はまとまらず、共和党は野党の民主党の支持を得ないと法案を通せないほど厳しい議会運営を強いられていた。
トランプ政権の運営が難航する確率はどれほどあるの?
思われているより高いのではないか。
実際、トランプ政権1期目の最初の2年間は共和党が上院と下院で過半数を維持していたが、2019年度の予算を成立させることができず、アメリカの政府は2018年12月から2019年1月にかけて35日間も閉鎖した。これが起こったのは、上院の民主党が、メキシコとの国境に壁を設立する予算に対してフィリバスターしたからである。トランプ2期目に民主党がフィリバスターの行使を遠慮する理由は乏しい。
下院について1つトランプが安心できるかもしれない要素は、1番の問題児だったゲイツが下院を去ったことである。また、昨年の反乱はトランプ寄りの議員が既得権益に溢れた(ように見えた)執行部に反発して起こったので、トランプが大統領に復帰したことで反乱組が少し大人しくなる可能性がある。