2026年11月3日(現地時間)の中間選挙まで1カ月半を切った。中間選挙の連邦下院選では大統領の政党が議席を減らすのが通常で、トランプ大統領の支持率が30%台に落ち込んでいるなか、共和党には強い逆風が吹いている。本稿では、連邦下院選で競争性のある選挙区が減っている背景を説明したうえで、2026年の連邦下院選において民主党が僅差で多数派を奪還できそうな情勢であることを解説していく。なお、連邦下院選と同時に行われる連邦上院選の情勢については、こちらの4回連載を参照。
連邦下院で民主党が過半数を奪還するためには何議席必要なのか
連邦下院では、中間選挙の際に435議席すべてが改選を迎える。連邦下院の現在の構成は、共和党219議席(共和系無所属を含む)、民主党214議席である。議員の辞職により欠員が2議席あるが、もともとは共和党と民主党の議席であったため、本質的な勢力は共和党220議席と民主党215議席と考えるのがよい。
これは歴史的に見ても僅差であり、民主党は中間選挙で3議席増やすだけで過半数を奪還できる。
大統領の政党は連邦下院でどれほどの議席を失うのが通常なのか
中間選挙は大統領の任期の折り返し点で行われるため、有権者による大統領への評価であると考えられる。大統領選から2年が経過すると多くの政権では発足時より支持率が低下しており、特に全議席が改選を迎える連邦下院では、その影響から大統領の政党が議席を減らすのが通常である。
具体的には、大統領の政党は連邦下院で30議席程度を失うのが一般であり、議席を増やせた例は極めて稀である。大きく議席を失った最近の例を見ると、2010年にはバラク・オバマ(Barack Obama)大統領の民主党が63議席を失った。反対に、2022年にはジョウ・バイデン(Joe Biden)大統領の民主党が9議席しか失わなかったため、健闘したと見られた。
今回は、トランプ大統領にとって2回目の中間選挙となる。第1期に行われた2018年の連邦下院選では共和党は41議席を失い、同時に過半数も失った。
連邦下院選の結果に大きな影響を及ぼすのが、大統領の支持率である。2018年の中間選挙は11月6日(現地時間)に行われたが、当時のトランプ大統領の支持率は40%前半だった。2022年のバイデン大統領の支持率は同水準であり、2010年のオバマ大統領の支持率は若干高い45%程度であった。類似した支持率であったにもかかわらずバイデン大統領の民主党が9議席しか失わなかったことが、2022年に民主党が健闘したと評価された主な理由である。
なお、連邦下院選と同時に行われる連邦上院選は、連邦下院ほど結果が大統領の支持率に直結しない。理由は、連邦上院では3分の1の議席しか改選を迎えず、上院議員は州単位で選出されるため、改選議席が大統領の政党に有利な州にあるのか、不利な州にあるのかという一種の運も、上院選の結果を左右するためである。実際、2018年には、トランプ大統領は連邦下院で過半数を失いながらも、連邦上院では議席を増やした。
なぜ今回の連邦下院選では従来ほど議席の変動につながらないと思われるのか
全国的に 大統領の政党への追い風が強まっても、それが連邦下院の大幅な議席変動につながるには、実際に勝敗が入れ替わる余地のある選挙区が必要になる。しかし現在のアメリカでは、有権者が大統領選と連邦議会選で同じ政党の候補に投票する傾向が強まっており、民主党の強い地域では民主党、共和党の強い地域では共和党がそのまま勝つことが多くなっている。
したがって、競争性のある選挙区が以前より少なくなっている。その変化は大統領選と連邦下院選で異なる政党が勝つ選挙区の数に表れており、1956年から1996年までの大統領選の年にそういった選挙区は毎回100以上あったが、2024年には16選挙区しかなかった。つまり、現在のアメリカでは、選挙区での大統領選の結果を見るだけで、連邦下院選の結果もかなり予想できるようになっている。
この一般的な傾向に加えて、今回は連邦下院選挙区の区割りの影響がある。
発端は、2025年夏にトランプ大統領がテキサス州(Texas)の共和党に対して、共和党がより多くの連邦下院議席を獲得できるよう選挙区を引き直すことを求めたことにある。連邦制のアメリカでは、連邦下院の選挙区を編成する権限は基本的に州にあるため、州議会と知事を同じ政党が握っている州では、選挙区を引き直せる場合が多い。
トランプ大統領の要請を受けて、テキサス州だけでなく、オハイオ州(Ohio)やフロリダ州(Florida)など、共和党が州政府を握る複数の州で共和党に有利になるよう区割りが進められた。これを受けて、民主党もカリフォルニア州で対抗し民主党に有利になるよう区割りを実施した。
共和党と民主党双方の区割り変更による増減を相殺すると、共和党は最大9議席を純増できる形になったと計算されている。なかでもテキサス州では、それまで民主党が保有していた5議席の獲得を明確な目標として、共和党は新しい選挙区を作った。
選挙区再編の実際の効果はどれほどなのか
選挙区の区割りを特定の政党に有利になるように操作することをゲリマンダー(gerrymander)と呼ぶ。共和党がゲリマンダーによって議席を増やすには、たとえば、民主党支持者を一部の選挙区に集中させながら共和党支持者を複数の選挙区に均等に割り当て、より多くの選挙区で共和党支持者が上回るように区割りすることが考えられる。
こうした場合、想定した得票を確保できればより多くの議席を取れる。だが、共和党支持者の票をより多くの選挙区に広げているため、各選挙区での余裕が小さくなり、共和党への支持が下がれば議席を落としてしまうリスクも生まれる。
テキサス州の共和党は2024年の大統領選の結果に基づいて選挙区の引き直しを行っており、共和党が奪取を狙った5選挙区のうち4選挙区はヒスパニック人口が多数を占めている。共和党は2024年大統領選でヒスパニック系有権者から46%の支持を得たが、従来の支持は30%台であるため、2024年の支持は異例に高かった。最近では、ヒスパニック系有権者のトランプ大統領の支持率が33%まで落ちていることから、テキサス州の共和党が行った区割りは思いどおりの議席奪取に繋がらない可能性が高まっている。
実際、トランプ大統領の支持率低下によって、選挙区再編の全般的な効果は薄れている。共和党の区割りは構造的に9議席の純増をもたらし得るものであったが、現在、選挙分析機関であるクック・ポリティカル・レポート(Cook Political Report)はその効果を4議席の純増、サバトズ・クリスタル・ボール(Sabato’s Crystal Ball)は2〜6議席の純増と見積もっている。
連邦下院の情勢はどのようなものなのか
民主党はわずか3議席を純増すれば多数派を奪還できる。共和党の区割りの効果は当初想定されていたほどは大きくならなかったが、過半数をめぐる差がこれほど小さいと、区割りによって共和党が数議席分の余裕を得ること自体が大きな意味を持つ。
連邦下院選での投票先を聞く世論調査では、民主党が大きくリードしている。リアルクリアポーリング(RealClearPolling)の9月24日時点の各種世論調査の平均では、民主党50.6%、共和党41.9%で、民主党が8.7%上回っている。9月1日時点では民主党のリードが5.7%だったのが、3週間で大きく拡大した。
トランプ1期の中間選挙では投票日直前に民主党が7.3%リードしており、民主党は41議席純増した。しかし、今回は上述した理由から競争性のある選挙区が少ないため、2018年と同程度の民主党への追い風があっても、今回それが同じ規模の議席変動につながる構造にはなっていない。実際、どちらの党も優勢とは言えない接戦(Toss-up)の選挙区の数は、クック・ポリティカル・レポートもサバトズ・クリスタル・ボールも21であるとしている。連邦下院の選挙区は435あるため、たった5%の選挙区が連邦下院の行方を左右している計算になる。
接戦の選挙区の大半は共和党の現有議席である。共和党が接戦の選挙区の大半で競い負けたとしても、議席減の幅は過去の平均である約30議席より少なくとどめられる可能性が高い。民主党は過半数を獲得できそうだが、たとえ多数派奪還が実現しても、共和党との議席差は小さくなることが推測される。
近年の連邦下院共和党は、議長の選定、エプスタイン・ファイルの公開、政府予算などさまざまな問題において、数人の議員の造反によって議会運営が混乱してきた。民主党側でも2026年の予備選で民主社会主義を訴える左派候補が主流派候補を破る例が相次ぎ、党内左派の存在感が増している。仮に民主党が連邦下院において僅差で多数派を奪還すれば、トランプ政権への対抗では一致できても、医療、移民、税制、歳出など具体的な政策をめぐって、左派と中道派がまとまることができるかが注目されるだろう。