2026年11月3日(現地時間)の中間選挙まで1カ月半を切った。民主党が連邦上院で多数派を獲得するには共和党から少なくとも4議席を奪う必要がある。本稿では、共和党の牙城でありながら競争性が高まったカンザス州(Kansas)とネブラスカ州(Nebraska)を取り上げる。あわせて、年初には注目されたものの現在は主要戦場から外れたミネソタ州(Minnesota)とフロリダ州(Florida)の情勢を確認し、最後に全4回を通じた2026年連邦上院選の構図を総括する。
民主党が多数派を得る道のりはどのようなものなのか
年初には極めて困難とみられていた民主党の多数派奪還だが、トランプ大統領の支持率は40%前後と低迷しているため、現実的な可能性として視野に入ってきている。
第2回では、民主党が議席奪取を狙う中心的な議席(テキサス州(Texas)、メイン州(Maine)、ノースカロライナ州(North Carolina)の情勢を見た。
さらに第3回では、共和党の基盤が強いものの民主党による議席奪取が視野に入った議席(アラスカ州(Alaska)、オハイオ州(Ohio)、アイオワ州(Iowa))の情勢を見た。
今回は、共和党の牙城であるにもかかわらず競争性が高まっているカンザス州とネブラスカ州を見ていく。どちらの州も、2024年大統領選で共和党のドナルド・トランプが15%以上の差をつけて圧勝した州である。近年のアメリカでは大統領選と連邦上院選の結果が一致する傾向が強くなっているため、民主党がこの2州で勝利を収めるのは極めてハードルが高い。
前回と同様、今回も候補者や州の事情、世論調査、選挙分析機関の評価を基に整理していく。世論調査は許容誤差などがあることを踏まえ、1つの調査に依拠するのではなく、リアルクリアポーリング(RealClearPolling)の平均を参照する。十分な数の調査が掲載されていない州については、個別の調査結果も補足する。また、情勢分析はクック・ポリティカル・リポート(Cook Political Report)、インサイド・エレクションズ(Inside Elections)、サバトズ・クリスタル・ボール(Sabato’s Crystal Ball)を共通の基準とする。
中道派の民主党候補が共和党の牙城で迫るカンザス州
カンザス州では、共和党現職のロジャー・マーシャル(Roger Marshall)に、民主党のアダム・ハミルトン(Adam Hamilton)が挑戦する。マーシャルは2020年に初当選した1期目の連邦上院議員で、その前は連邦下院議員であった。ハミルトンは今回が初めての公職選挙である。
2024年大統領選では、トランプが16%の差でカンザス州を制している。2020年も2016年もトランプが大差で勝利していることから、この州は共和党の牙城である。
連邦上院選では共和党の強さが更に顕著である。民主党が最後に勝ったのは1932年であり、最近では、2022年に共和党の現職が23%の差で民主党候補を破り、2020年にはマーシャル本人が11%の差で民主党候補を破っている。
今回は、そのカンザス州で民主党候補が接近している。リアルクリアポーリングの9月23日時点の平均では、マーシャル46.0%、ハミルトン44.5%で、マーシャルのリードは1.5%にとどまる。ただし、世論調査は2つしかないことに注意が必要で、それもマーシャルが5%先行するものとハミルトンが2%先行するものに結果が分かれている。選挙分析機関のうち、クック・ポリティカル・リポートとインサイド・エレクションズはこの選挙を共和党優勢(Likely Republican)、サバトズ・クリスタル・ボールは共和党やや優勢(Leans Republican)としている。
カンザス州で民主党が競争力を保っている背景には、州固有の事情、トランプ大統領の不人気、そして何より候補者の資質がある。ハミルトンは全米最大規模の合同メソジスト教会を創設した牧師で、2万5000人の会衆を抱えるまでに成長させた。選挙では自らを政治的な中道に位置づけ、生活費や医療費など身近な経済問題を前面に出している。1995年から2003年まで知事を務めた共和党のビル・グレイブス(Bill Graves)がハミルトンの支持を表明したことが、保守的なカンザス州でのハミルトン個人の魅力を語っている。
さらに、カンザス州では農業が重要な産業であり、燃料価格や肥料など農業コストの上昇が共和党への逆風を強めている。関税政策についても、農業では輸出品への報復関税を受けるリスクがあるため、関税政策に対する警戒が従来から強く、実際、トランプ関税は評価されていない。これらがトランプ不人気につながっており、最近の世論調査によると、同州におけるトランプ大統領の不支持率は53%(支持率40%)である。
とはいえ、州の党派的な基礎は共和党に強く傾き、マーシャルも現職上院議員として知名度が高い。最終的にマーシャルが再選する可能性が高いが、共和党が通常ならほとんど意識する必要がないカンザス州で資金を投入する必要があることは民主党にとって大きな意味がある。実際、共和党系の団体は、ハミルトンに反対する独立支出として約140万ドル(約2億円)を投じている。
無所属の候補が共和党の牙城で追い上げるネブラスカ州
ネブラスカ州では、共和党現職のピート・リケッツ(Pete Ricketts)に、無所属のダン・オズボーン(Dan Osborn)が挑戦する。リケッツは2015年から2023年まで州知事を務め、2023年に辞職した議員の後任として任命されたのち、2024年に特別選挙で当選した。オズボーンは2024年に無所属として連邦上院選に出馬していた。
2024年大統領選では、トランプが20%の差でネブラスカ州を制した。2020年と2016年も同様の差でトランプが圧勝していることから、この州も共和党の牙城である。
ネブラスカ州では2024年に2つの連邦上院選が行われた。1つはリケッツが25%の差で民主党の候補を破った特別選挙である。もう1つは通常の6年任期を争う選挙で、オズボーンが共和党の現職を約7%の差まで追い上げた。その前の2020年の連邦上院選では、共和党の現職が38%差で圧勝している。
今回の選挙は、オズボーンが再度出馬したことにより、全国的に注目されている。だが、リアルクリアポーリングは9月23日時点で世論調査を表示していない。一方、9月に行われた2つの調査では、オズボーンが46%対42%で4%先行するものと、リケッツが52%対48%で4%先行するものに結果が分かれており、いずれも接戦を示している。ただ、選挙分析機関はいずれもこの選挙を共和党優勢としている。
オズボーンは海軍退役軍人で、工場の機械工として働き、労働組合の支部長を務めた経歴を持つ。2021年にはオマハのケロッグ工場で行われたストライキを率いたことで知られる。オズボーンは2024年の連邦上院選で共和党現職に約7%差まで迫っていたが、これは同日の大統領選で民主党候補だったカマラ・ハリス(Kamala Harris)が敗れた差より約13%、もう1つの連邦上院選で民主党候補が敗れた差より約18%小さく、党派を超える魅力を見せつけた。
ネブラスカ州の民主党は当初からオズボーンを事実上支援する姿勢を取った。民主党予備選では、勝利した場合には本選から撤退してオズボーンを支援すると表明していたシンディ・バーバンク(Cindy Burbank)が約9割の票を得て勝利するという奇妙なことが起こり、その後バーバンクは実際に候補を辞退した。
もっとも、オズボーン自身は民主党候補ではない。当選した場合、民主党・共和党のどちらとも会派を組まないとしている。オズボーンが当選しても民主党会派の1議席が増えるわけではないが、共和党の議席は1つ減るという点で連邦上院の多数派争いには直接影響する。また、カンザス州と同じく、共和党が自らの牙城に資金を投入する必要があること自体が民主党にとって有意義である。実際、共和党系の外部政治団体がリケッツを支援する広告に140万ドル(約2億円)を超える資金を投じている。
注目される州から外れたミネソタ州とフロリダ州
1月時点では、民主党が守るミネソタ州と共和党が守るフロリダ州が一定の注目を集めていたが、現在は主要戦場から外れている。
ミネソタ州では、民主党の現職の引退により、民主党の副知事であるペギー・フラナガン(Peggy Flanagan)と共和党のミシェル・タフォヤ(Michele Tafoya)が争う。タフォヤは元スポーツキャスターとして全国的に知られた存在であり、人工妊娠中絶についても共和党所属としては比較的穏健な立場を取っていることから、共和党側からは無党派層に訴えられる候補として期待されている。リアルクリアポーリングの9月23日時点の平均では、フラナガンのリードが1.8%にとどまるが、同州は民主党が大統領選で1976年から13回連続勝利している州であり、今年のように共和党にとって厳しい政治環境の中、共和党が勝ち抜ける州ではない。実際、選挙分析機関はいずれもこの選挙を民主党優勢(Likely Democrat)としている。
フロリダ州では、マルコ・ルビオ(Marco Rubio)の国務長官就任に伴う特別選挙で、共和党現職のアシュリー・ムーディー(Ashley Moody)に民主党の州下院議員アンジー・ニクソン(Angie Nixon)が挑戦する。ニクソンは8月の民主党予備選で、資金力で大きく上回っていた主流派候補を破る番狂わせを起こした。フロリダ州は従来拮抗していた州だが、最近の大統領選、知事選、連邦上院選では大きく共和党寄りに動いている。ニクソンは左派の政策を掲げていることから、支持を広げるうえで課題になると見られている。リアルクリアポーリングの9月23日時点の平均ではムーディのリードが5.5%にとどまるが、選挙分析機関はいずれもこの選挙を共和党安定(Safe/Solid Republican)としている。
2026年連邦上院選の情勢をどう見るのか
連邦上院の現在の構成は、共和党53議席、民主党47議席(民主系無所属を含む)であり、表決が50対50となった場合には共和党の副大統領が決定票を投じるため、民主党が多数派を奪還するためには共和党から4議席を純増する必要がある。その中で、2026年に改選される議席の地理そのものが共和党に有利であることが、民主党の最大のハードルとなっている。
そこで民主党はまず、現有議席を死守する必要がある。トランプ大統領の支持率が低迷する中、政治環境は民主党に有利であるが、ミシガン州とジョージア州はトランプが2024年の大統領選で勝利した州であることから油断を許さない。特にミシガン州では左派の候補者が予備選を勝ち抜き、共和党は強い候補を立てているため、民主党は議席を落としかねない。ニューハンプシャー州はハリスが2024年の大統領選で勝利しているが、共和党候補者の知名度が抜群であることから安心できない。1つでも落とすことがあれば、多数派奪還に必要な議席が増えることとなる。
さらに民主党は、共和党の現有議席のうち、多数派奪還の土台となる3議席を取りこぼさないことが重要である。2024年の大統領選でハリスが勝利したメイン州では、共和党現職が多くの「個人票」を有するため、トランプ政権の批判だけでは勝利が勝ち取れない。テキサス州ではスキャンダルが多い共和党の候補者の弱点をつき、ノースカロライナ州では前知事の高い知名度を活かして、民主党が勝利を確実にしないと多数派奪還は難しくなる。
現有議席をすべて守ったうえで、メイン州、テキサス州、ノースカロライナ州の3議席をすべて共和党から奪っても、民主党はまだ多数派に1議席届かない。その4議席目として最も可能性が高いのが、民主党が最有力候補者を立てられたアラスカ州とオハイオ州である。加えて、アイオワ州もトランプ政権への批判が高まる中で視野には入った。だが、これら3州はどれも2024年の大統領選でトランプ大統領が大勝した州であり、共和党の候補者にも明確な弱点がないため、民主党が勝利するのは決して楽ではない。
カンザス州とネブラスカ州は、民主党が多数派を奪還するために勝たなければならない州ではない。むしろ、この2州まで共和党が失うような選挙になれば、民主党はそれより競争性の高い州の大半でも勝利していると考えられ、多数派奪還を超えて議席を伸ばしている可能性が高い。
2026年の改選議席の分布そのものは共和党に有利である。その中で民主党が4議席を純増するには、全国的な政治環境の追い風に加え、自党の現有議席を守り、主要な奪取候補を取りこぼさず、さらに共和党寄りの州で大統領選時の党派的な基礎票を上回る必要がある。全4回を通して見えてくるのは、2026年の連邦上院選が、全国的な政治環境と各州の党派的な地理、そして候補者個人の強さがどこで交差するかをめぐる選挙になっているという構図である。
次は、全議席が改選を迎える連邦下院選の情勢を解説する。