2026年11月3日(現地時間)の中間選挙まで1カ月半を切った。民主党が連邦上院で多数派を獲得するには共和党から少なくとも4議席を奪う必要がある。本稿では、2026年連邦上院選で民主党が多数派を得る可能性が高まっていることを解説したうえで、民主党が守る必要がある3議席の情勢をみていく。
民主党が多数派を得る道のりはどのようなものなのか
現在の連邦上院の構成は共和党53議席、民主党47議席(民主系無所属を含む)で、表決が50対50となった場合には共和党の副大統領が決定票を投じる。そのため、民主党が多数派を得るためには4議席を純増する必要がある。
そもそも2026年の連邦上院選は、改選される議席の地理そのものが共和党に有利である。共和党が現在持つ改選22議席のうち、2024年大統領選で民主党のカマラ・ハリス(Kamala Harris)が勝った州はメイン州(Maine)だけである。一方、民主党は共和党のドナルド・トランプが勝ったミシガン州(Michigan)とジョージア州(Georgia)の議席も守らなければならない。民主党はこうした共和党寄りの改選地図の中で、現有議席を守りながら共和党から少なくとも4議席奪う必要がある。近年のアメリカでは大統領選と連邦上院選の結果が一致する傾向が強くなっているため、これは極めてハードルが高い。今年1月には多数派奪還が極めて難しいと見られていた理由はこのためである。
それから8カ月余りが経ち、予備選も終了したことで、本選の構図が見えてきた。一部を除き、民主党は概ね「勝てる候補」を予備選で選ぶことに成功した。さらには、物価高・生活費への不満が高まっており、トランプ大統領の支持率は40%前後と低迷している。結果、年初には極めて困難とみられていた民主党の多数派奪還が視野に入ってきている。
連邦上院の多数派の行方を左右する主要州の情勢を4回に分けて、候補者や州の事情、世論調査、選挙分析機関の評価を基に整理していく。世論調査は許容誤差などがあることを踏まえ、1つの調査に依拠するのではなく、リアルクリアポーリング(RealClearPolling)の平均を参照する。また、情勢分析はクック・ポリティカル・リポート(Cook Political Report)、インサイド・エレクションズ(Inside Elections)、サバトズ・クリスタル・ボール(Sabato’s Crystal Ball)を共通の基準とする。この3つはいずれもアメリカの選挙を継続的に分析している代表的な選挙分析機関で、世論調査に加えて候補者の強さ、州の政治的傾向、全国的な政治環境、資金や選挙運動の状況などを踏まえ、それぞれの選挙の競争性を評価している。
本稿ではまず、民主党の現有議席であるミシガン州、ニューハンプシャー州(New Hampshire)、ジョージア州を見ていく。
民主党が選んだ候補者が共和党に奪還の機会を与えているミシガン州
ミシガン州では、民主党現職の引退により空席となる議席をめぐって、民主党のアブドゥル・エル・サイード(Abdul El-Sayed)と共和党のマイク・ロジャース(Mike Rogers)が争っている。エル・サイードは8月の民主党予備選で、党主流派の支持を得た連邦下院議員を1%差で破った党の非主流派である。ロジャースは元連邦下院議員であり、2024年に続く再挑戦となる。
2024年大統領選では、トランプが1.4%差でミシガン州を制した。2020年にはジョウ・バイデン(Joe Biden)が、2016年にはトランプが勝っているため、ミシガン州は典型的な接戦州である。
ただ、連邦上院選で共和党が最後に勝ったのは1994年であり、その後30年以上にわたって民主党が連勝している。もっとも最近の選挙はかなり接近しており、2020年には民主党の現職が共和党の候補者に1.7%差まで追い上げられ、2024年には民主党の現職連邦下院議員がロジャースを0.3%の差で振り切った。
世論調査によると、今回の連邦上院選も接戦である。リアルクリアポーリングの9月21日時点の平均は、エル・サイード46.9%、ロジャース44.8%とエル・サイードが2.1%上回っている。また、選挙分析機関も3つともがこの選挙を接戦としている。
トランプ大統領の支持率低迷にもかかわらずミシガン州で共和党が競争力を維持している大きな要因は、候補者の組み合わせである。ロジャースは2024年の上院選で民主党候補と接戦を演じ、州全体で競争できることをすでに示している。一方、エル・サイードは民主党左派の候補であり、全国的に民主党に有利な政治環境を十分に自身への支持につなげられていない。9月のワシントン・ポスト(Washington Post)の世論調査では、連邦上院で民主党が多数派を獲得することを望む有権者が53%だったのに対してエル・サイードへの支持は48%にとどまっており、同じく48%がエル・サイードが「リベラルすぎる」と回答している。また、エル・サイードはイスラム教徒であり、イスラエルのガザに対する攻撃を強く批判していることが、民主党を支持する傾向にあるユダヤ人の間で支持離れにつながっている。
エル・サイードが共和党の強い候補を相手にトランプに対して批判的な有権者を十分に取り込めていないことが、共和党にこの議席を奪う機会を与えている。
名門一家出身の共和党候補者が奪還の可能性を残しているニューハンプシャー州
ニューハンプシャー州では、民主党現職の引退により空席となる議席をめぐって、民主党のクリス・パパス(Chris Pappas)と共和党のジョン・E・スヌヌ(John E. Sununu)が争っている。パパスは2019年から連邦下院議員を務めている。ニューハンプシャー州には連邦下院の選挙区が2つしかないため、パパスは全州で知名度がある。スヌヌは2003年から2009年まで同州の連邦上院議員を務めており、18年ぶりの上院復帰を目指している。父のジョン・H・スヌヌ(John H. Sununu)は1983年から1989年まで同州知事を務め、弟のクリス・スヌヌ(Chris Sununu)も2017年から2025年まで州知事を務めた。
2024年大統領選では、ハリスが約3%差でニューハンプシャー州を制した。2020年にはバイデンが勝ち、2016年もヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)が僅差で勝っているため、民主党が連勝している。
2016年以降の連邦上院選でも民主党が全勝している。2016年には、当時の知事が共和党現職をわずか0.14%差で破り、2020年と2022年には、共和党候補者の競争力が弱かったこともあり、民主党の現職が差をつけて再選した。
世論調査によると、今回は接戦である。リアルクリアポーリングの9月21日時点の平均はパパス46.0%、スヌヌ41.2%となっており、パパスが4.8%上回っている。また、選挙分析機関のうち、クック・ポリティカル・リポートとインサイド・エレクションズはこの選挙を接戦、サバトズ・クリスタル・ボールは民主党やや優勢としている。
ニューハンプシャー州は強い候補者同士の対決である。パパスは拮抗している連邦下院選挙区で4回勝利してきた現職議員で、知名度が高い。スヌヌはニューハンプシャー州を代表する政治名門一家出身であることに加えて自身も元連邦上院議員であり、知名度は抜群である。近年のニューハンプシャー州の連邦選挙では民主党が勝ち続けており、トランプ大統領の支持率は低迷しているので、政治環境としては民主党側に有利である。その中で、スヌヌが候補者個人の強さによってその逆風をどこまで吸収できるかがこの選挙の大きな焦点となる。
民主党現職が安定しているジョージア州
ジョージア州では、民主党現職のジョン・オソフ(Jon Ossoff)に対して、共和党の現職連邦下院議員マイク・コリンズ(Mike Collins)が挑戦する。オソフは2021年から連邦上院議員を務めており、コリンズは2023年から連邦下院議員を務めている。
2024年大統領選では、トランプが約2.2%の差でジョージア州を制した。2020年にはバイデンが、2016年にはトランプが勝っているため、ジョージア州はミシガン州と同様の接戦州である。
しかし、現在の世論調査ではオソフが大きなリードを保っている。リアルクリアポーリングの9月21日時点の平均は、オソフ50.6%、コリンズ43.1%で、オソフが7.5%上回っている。3つの選挙分析機関も、全てが民主党寄りと評価している。
民主党優位には、候補者の資質の違いが出ている。オソフは選挙資金調達に長けており、6月末時点で4,260万ドル(約67億円)もの資金を有していた。コリンズはまだ2期目の連邦下院議員であり知名度が低く、6月末時点の手元資金は210万ドル(約3億円)にとどまっていた。共和党執行部は当初、州内で高い支持率を維持してきたブライアン・ケンプ(Brian Kemp)知事の擁立を目指していたが、ケンプは最終的に出馬を見送った。トランプへの逆風の中でオソフに対抗できる最有力候補が出馬しなかったことで、共和党は勝利への見込みがないとして諦めている節がある。
民主党にとってのこの3州の重要性とは
トランプ大統領の支持率が低迷する中、共和党は空席となるミシガン州とニューハンプシャー州で有力候補を擁立できた。さらにミシガン州では、党主流派が本選挙での競争力を懸念していた左派候補が民主党予備選を勝ち抜いた。全国的な政治環境が民主党に有利でも、民主党候補がその追い風をどこまで生かせるか、あるいは共和党候補が逆風をどこまで抑えられるかによって、実際の結果は左右され得る。民主党が連邦上院で多数派を得るには共和党の現有議席を少なくとも4議席奪う必要があり、そのためには、まず民主党が現在持つこの3議席を維持することが前提となる。
次の第2回では視点を共和党の現有議席に移し、民主党が議席奪取を狙う中心的な3州であるテキサス州(Texas)、メイン州(Maine)、ノースカロライナ州(North Carolina)を見ていく。